9月12日(2020年)、イタリアで行われた第77回ベネチア国際映画祭で、黒沢清監督「スパイの妻」(10月16日公開予定)が監督賞にあたる銀獅子賞を受賞した。
黒沢監督は「今回は現地に行っていないので、突然でびっくりしました。(今回の作品は)戦時下という状況の中で、いつも通り社会と個人の関係性を描くことがより鮮明にできたと思っています」と喜びを語っている。
日本人の銀獅子賞受賞は、2003年の北野武監督「座頭市」以来17年ぶり。主演の蒼井優(35)は「おめでとうございます。名前が呼ばれた瞬間、現場の片隅でモニターを見つめられていた監督と奥様の後ろ姿を思い出しました」とコメント。夫役の高橋一生(39)も「この作品が世界で評価されることをうれしく思います。作品を作り上げていく時間は最高の体験でした」と語った。
海外の評論家からは、巨匠黒澤明監督になぞらえ「もうひとりのクロサワ」と呼ばれる。これまでも国際映画祭で数多くの受賞があるが、今回は初めての時代物。1940年という戦争直前の状況下、国家機密を知ってしまった貿易商と何も知らぬまま憲兵に呼び出された妻の、穏やかな生活が崩れていく恐怖を描いている。
顔が半分暗くなる描き方で、心の闇の深さを表現
スッキリでは映画ライターのよしひろまさみち氏が、黒沢監督の魅力に迫った。
ジャパニーズホラーの先駆けとされる黒沢監督だが、よしひろ氏によるとホラーというよりサスペンスで、人間や社会の奥底に潜む悪意を描いているという。心の闇を表現する画面の暗さも特徴的だ。妻が夫に不審を抱き問い詰めるシーンでは、顔の片側から光を当て、奥行きのある背景と対比させ心の闇の深さを表現している。
司会の加藤浩次「戦争に突入するシーンを描く映画はあまりなかった」
橋本五郎(読売新聞特別編集委員)「しのびよる不安やさい疑の気持ちは戦前の方がはっきりするのかもしれない。顔が半分明るく、半分暗いのは考えていると思う。これが戦争前の状態で、次第に暗くなっていくことを予感させる」
よしひろまさみちさん「今映画にするなら戦争前夜の不安感がテーマになってくるのでは」
加藤浩次「不穏な世の中が現代ともオーバーラップする部分がある」
小澤征悦(俳優)「照明が横から当たるのは室内ではあり得ない状況。マーロンブランド主演のラスト・タンゴ・インパリでも横から当てる照明を印象的につかっていた」