新型コロナでどん底の飲食業界、生き延びの策は?逆境を乗り越えるため、成長を支えてきたトップダウン経営から、社員一人一人が主人公に大転換

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   新型コロナの影響で、売り上げ大幅減というどん底にある飲食業。逆境を乗り越えるため飲食店はどう立ち向かっているだろうか。

   大阪を中心に77店舗を展開する従業員200人のお好み焼きチェーン。高級感のある商品をメインに売り上げを伸ばしてきたが、今年(2020年)は去年の70%減。「これはやばい。現状維持なら間違いなくつぶれてしまう」と中井寛二社長(44)は危機感をあらわにする。

   7月22日(2020年)、現場リーダー10人を集めて「リボーン会議」と名づけた、再生をかけた特別プロジェクトを始めた。従来のトップダウン経営ではなく、みんなで話し合う場を作るのが狙いだ。低価格商品開発案や、冷凍食品やデリバリーの新事業も提案された。

  • 写真はイメージ(NHK「クローズアップ現代+」の番組ホームページより)
    写真はイメージ(NHK「クローズアップ現代+」の番組ホームページより)
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「新事業の立ち上げは難しい。夢物語を考えている場合か!」

   しかし、招かれて同席した経営コンサルタントの黒石和宏さんから「甘い」の声が飛んだ。「1年で(投下資金を)回収できなかったらクローズするとか、フットワークの軽いモデルをもっと作らないと」「営業活動はどうするのか、そのへんもミックスして、もっとディープにやった方がいい」と手厳しい。

   現場のトップである本部長の源氏雄三さん(41)はほとんど発言しなかった。「今の状況で新事業を立ち上げるのは難しい。夢物語を考えている場合か」と思っていた。店舗を回っても「皆が何をしていいかわからない。僕もわからない」状態だという。

   一方、人づくりに動き出した会社もある。大阪にある従業員87人のたこ焼きチェーンは、今年の売り上げが去年の30%。永尾俊一社長(56)は、今を踏ん張りどころとして「生き残るという心のタフさ」を従業員に求めた。

   入社5年目の辻村有希さん(26)は新商品開発を託された。考えたのは、タコを使った釜めし。短い調理時間で味を引き出すことが課題で、通勤中に歩きながら考えた。やっとできた試作品は、社長試食会で「コメの硬さが解消されていない」と評された。店の態勢も整えておらず、社長から「200人分をこれで作れるのか。お料理学校ごっこじゃない。ど素人か、何年やっとんねん」と檄を飛ばされ、思わず涙ぐんだ。

   1カ月以上試行錯誤して、辻村さんは再び社長試食会に試作品を出し「合格、オーケー」のゴーサインを勝ち取った。今度は笑いが出た。辻村さんは「新たなことにチャレンジして壁を乗り越えていきたい。何か軸がないと倒れてしまうとひしひし感じました」と語る。永尾社長からは「前からやりたかった人づくりをコロナがあるからやらざるを得なかった。コロナもちょっとええなあ」と冗談も出た。

「コロナもちょっとええなあ。おかげで人づくりができた」

   「リボーン会議」のお好み焼きチェーン会社では、8月5日の会議に店舗77店中8店舗の閉鎖案が出た。これには、経営コンサルタントの黒石さんから「あなたたちミドルマネージャーがどれだけシミュレーションしてきたのか」と問い詰められた。

   実は、来年3月までに月間黒字を達成できなければ会社存続に直結する状況の中で、中井社長は全従業員に「200人の雇用は私の命にかえても守る」というメールを送っていた。これに本部長の源氏さんは「半年で黒字化は難しい。それなら従業員に気持ちよく辞めてもらおう」と反論した。議論は4時間かかり、社長からはデリバリー事業の提案があった。

   源氏さんは、デリバリー事業は保険や事故を考え、やめる方向で社長に直訴した。結局は源氏さんの意見が受け入れられ、デリバリーでなく、冷凍事業に力を入れることが決まった。社長を部下が押し返した形だ。「このコンセプトでやっていけば、どれだけ従業員がモチベーションを上げて働けるか」と源氏さんは確信し、中井社長は「勇気をもう一度わき起こしてアクセルを踏んでいきたいと思った」という。

   逆境を乗り越えるカギは経営者の冷静な決断あると、京都で革新的な手法で飲食店を経営する中村朱美さんはいう。1日100食限定、売り切れたら閉めるので、長時間労働が当たり前の業界で従業員の残業ゼロを実現した人だ。しかし、コロナ禍では売り上げが去年の20%に減り、4店中2店舗を閉鎖、従業員23人の半数を解雇した。

   どう計算しても4か月後には倒産する。悩んで少しでも助けられるものならと選んだという。肉をさばけるかの技術面を解雇の基準にした。「そこに葛藤と罪悪感があり、解雇には客観的正当性が必要」と考えた。

   中村朱美さんは、これからは「目標数値を下げて黒字を維持する」低空飛行の経営と、「飲食業でも昼に働く」ホワイト化が進むと感じる。「哀しさや怒り、誰かのせいにしたい感情を心に閉じ込めて、責任をとる気で進めば絶対に復活できる。きっと来年は笑顔で働ける」と信じているそうだ。

NHKクローズアップ現代+(2020年9月10日放送「逆境こそ飛躍のチャンス コロナ禍のリーダー社員たち))

文   あっちゃん
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