国際宇宙ステーションから飛行士が「でかい台風が、日本に近づいている」という。8Kカメラが捉えた台風10号は、これまで見たことがないほど巨大だった。そう「スーパー台風」の実物を突きつけたも同然だった。これにどう備えたらいいのか。
今回最大瞬間風速の最高は、長崎市野母崎の59.4mだった。屋根を飛ばされた人は、「風の音じゃなかった。ハンマーで叩き回るようだった」という。しかしその野母崎でも、台風接近前の7日午前零時には、平均風速は15.4mだった。台風はまだ鹿児島沖。ところがその2時間後には、平均43.7mになっていた。
市街地では、古い建物による二次災害が問題になる。屋根や壁の破片が飛べば、十分に凶器になる。35mの風では、雨傘は簡単に窓ガラスを貫通する。現に、39.1mを記録した福岡・博多区では、古い建物の被害が相次いだ。
九州大の塚原健一教授は、「弱い建物があると、その建物で、地域の強さが決まってしまう。地震や洪水と違って、風にはハザードマップがない。そういう目で、自分の街をもう一回見て欲しい」という。
台風9号が海水温下げたおかげで最大級は回避されたが...
台風10号ははじめ、最大瞬間風速80mといわれた。60m以上を「スーパー台風」と呼ぶ。その到来は早くからいわれており、最大の要因は、海面水温の上昇だ。日本の南の近海は8月、統計開始以来最も高い30度近くになっていた。海水温が上がれが上がるほど、強い台風が増える。最大強度も増すだろうといわれる。
ただ、今回は僥倖があった。慶大の宮本佳明専任講師によると、1週間前に鹿児島沖を通過した台風9号が、九州西側から東シナ海の海水温を下げた。そこへ10号がほぼ同じコースをとったことで、相乗効果で抑えられた、というのだ。
また、台風の目をとりまいて、海からの水蒸気を吸い上げる役を果たすアイウォールと呼ぶ雲の壁が、10号にはもうひとつ外側に二重のアイルウォールができて、エネルギーを分散させる結果になったという。「それがなかったら、恐ろしいことになっていた」と宮本さんはいう。
温暖化のもうひとつの原因とされるのが、高気圧の異変だ。日本近海まで熱帯なみになった結果、太平洋高気圧が南西に大きく張り出し、台風のコースを変え、本土近くへ押しやったり、10号のように急発達させたりするのだという。
だから今回も、もし9号がなくて、10号が強い勢力のまま北上してきていたら、「甚大な被害を被った。今回はあくまで偶然の所産」と専門家は口をそろえる。つまり、今年これからでも、来年以降でも、スーパー台風の可能性を否定しない。では、どう備えたらいいのか。
早い避難のカギとなる洪水予測システムが試された
今回気象庁と国交省は、異例ともいえる最大級の警戒呼びかけを連日行い、鹿児島県十島村では、ヘリによる島外への避難というかつてない対策までとった。自治体の取り組みも真剣だった。中で、宮崎県西都市の試みが注目された。
西都市は、東大とJAXAが研究中の「Today's Earth Japan(TEJ)」という洪水予測システムの実証実験に参加していた。このシステムは、川の流れ、土壌、植生から水の量、保水力、風、温度などを解析して、最大39時間前に洪水予測を出せる。気象庁が出す予報は6時間前だから、格段に早い。
宮崎には、48時間で1000mmという予報が出ていた。とんでもない雨量だ。洪水が予想されると、地図の上にピンが立つ。圏内で2カ所にピンが立った。が、西都市には立たない。にもかかわらず6日午後、市は避難勧告に踏み切った。暗くなってからでは、避難できないからだ。
そして6日深夜、10号が最接近した。しかし雨量は少なく、川は氾濫しなかった。結果はTEJの予想通り。ピンが立った所は、氾濫危険水位に達していた。西都市の担当者は、「この経験を、今後に活かす」という。
「スーパー台風」が現実味を帯びてきた今、建物が密集した都市部では、建物の状況に神経質にならざるを得ない。小さな飛散物でも凶器になるからだ。NHK社会部の島川英介・災害担当は、「建物をどう補強していくか公的支援も考える必要がある」という。次の巨大台風はいつになるのか。時間はあまりないはずだ。
※NHKクローズアップ現代+(2020年9月8日放送「台風 新たな時代にどう備えるのか」)