安倍が辞任する。弱々しい病人になってしまったことが何かやりきれない。記者会見を1時間見続け、私はノートにこうメモした。「やはり何も成し遂げなかった人だった」

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NHKのカメラだけにしゃべり続けた「大叔父の佐藤栄作に似てきたな」と思った

   会見を見ていてまず思ったのは、「大叔父の佐藤栄作に似てきたな」ということだった。両頬のタレ具合がそっくりだ。

   佐藤は辞任の記者会見の時、新聞や民放を追い出し、NHKのカメラだけを残して、それに向かってしゃべり続けた。

   国民に語り掛けたのではない。自分の身勝手な主張を延々と話し続ける姿は、独裁者の成れの果てだと、テレビを見ていてそう思った。

   安倍は、プロンプターも使わず、原稿に目を落とすこともなく、読売が報じたように、直前にまとめたコロナ対策について語り、その後、辞任の弁を語り始めた。

   6月に再発の兆候があり、薬を投与されたが、8月に再発が確認された。

   新しい薬を投与されたが、予断を許さない。体調が万全でないために政治判断を誤ることがあってはならないと思い、辞することを決めた。

   悩みに悩んだが、冬を見据えて、新体制に移行するならこのタイミングしかない。佐藤のように高ぶることもなく、淡々と語った。

   記者から、レガシーは何かと聞かれ、東北の復興、400万人の雇用の創出、地球儀を俯瞰する外交などと述べたが、開始から20分ぐらいで、声がややかすれてきた。口が乾くのだろう、唇を舐めるようなしぐさをする。

   拉致問題や日ロ交渉に進展がなかったことを聞かれ、「痛恨の極み」といった。

   総理の資質について問われると、首相という職務は一人ではできない、大事なのは「多くのスタッフや議員たちとのチームワーク」と答えたのが、安倍らしかった。

   辞任は一人で考えて決めたという。憲法改正、地方創生、核兵器廃絶、IT化の遅れ、メディア対策などの質問が出たが、おざなりの答えしかしなかった。

   少し怒気をはらんだいい方をしたのは、「政権を私物化したのでは」と聞かれた時だ。強い口調で「私物化をしたことはない」といい切った。

   東京五輪については、私の後任がしっかり準備を進めていかなくてはいけないと、中止という考えはないようだ。

元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任。講談社を定年後に市民メディア『オーマイニュース』編集長。現在は『インターネット報道協会』代表理事。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)『現代の“見えざる手”』(人間の科学社新社)などがある。

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