安倍が辞任する。弱々しい病人になってしまったことが何かやりきれない。記者会見を1時間見続け、私はノートにこうメモした。「やはり何も成し遂げなかった人だった」

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   安倍晋三首相が辞任する。私が知ったのは朝日新聞DIGITAL(8月28日 14時50分)の速報だった。

   朝、新聞各紙を買って、安倍が首相の座に残るのか、辞任するのかについて、どう報じているのかを見てみた。だが、「ワクチン全国民分確保へ」(読売新聞1面)など、コロナ対策が発表されるとは書いてあっても、「首相、きょう会見 健康状態・コロナ対策を説明か」(朝日新聞)としか書いていない。

   私が読んだ限りでは、昨日のスポニチだけが「首相続投」と書いただけだった。この不気味な沈黙が何を意味するのか、私には計りかねた。

   朝の『とくダネ!』(フジテレビ系)に出た産経新聞政治記者が、入院という選択肢はないが、持病を抑えながら続投するか、退陣の可能性もあるのではないかと、口ごもりながらいっていたのを聞いて、安倍首相は退陣に傾いているのかと思った。

   安倍首相に近い読売新聞と産経新聞は、続投ならば1面トップでやってくるはずだからだ。

  • すっかりやつれた安倍首相の退陣会見(NHKテレビ速報より)
    すっかりやつれた安倍首相の退陣会見(NHKテレビ速報より)
  • すっかりやつれた安倍首相の退陣会見(NHKテレビ速報より)

長いだけで何のレガシーも残さず、疑惑ばかりをばら撒き続けてきた安倍の罪はこれから検証されるだろう

   安倍一強を倒したのは、野党でもメディアでも世論でもなく、第一次政権と同じ自らの内なる病だった。

   私のオフィスには金子兜太の筆になる「アベ政治を許さない」のコピーが貼ってある。ここでも散々安倍の悪口を書き連ねてきた。

   長いだけで、何のレガシーも残さず、疑惑ばかりをばら撒き続けてきた安倍政権の罪は、これから様々なメディアで検証されるだろうが、一抹の寂しさを感じないといえば、嘘になる。

   決して、安倍を懐かしむわけではない。体調不良を押し隠して職務を遂行してきたことを賞賛する気もない。モリ・カケ問題や「桜を見る会」疑惑をなかったことにする気はさらさらない。

   数々の疑惑を国会で追及されても、質問には答えず、逆に恫喝する憎々しいまでの増上慢ぶりが消え、弱々しい病人になってしまったことが、私には、何かやりきれないものを感じるのだ。最後まで居丈高でいてほしかった。

元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任。講談社を定年後に市民メディア『オーマイニュース』編集長。現在は『インターネット報道協会』代表理事。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)『現代の“見えざる手”』(人間の科学社新社)などがある。

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