「自分の人生は自分で考えて自分で決めていこう」。47歳で逝った投資家で教育者の瀧本哲史さんが若者たちに残したメッセージとは

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   6月30日(2020年)の夜7時、「瀧本哲夫ゲリラナイト」というネットイベントがあった。去年(2019年)8月に47歳で死去した京都大学客員准教授で投資家だった瀧本さんの東京大学での講演を、あらためてみんなで聴こうという企画だ。このなかで、瀧本さんはこう語っていた。

   「20代半ばくらいのみなさんだったら、世の中をちょっと変えることはできるんじゃないかなと、僕は思っています。世の中は変わらないだろうと諦めちゃう若い人は多いんですが、世代が交代すれば、必ずパラダイムシフトが起こせると思っています」

   若者を鼓舞する講義録はひと晩で2万回以上の再生があった。参加した会社員(29歳)は「これから時代を作っていくのは君たちだから、こうやっていったらいいよと言ってくれるのは、瀧本さん」という。

  • 瀧本哲史さん(『NHKクローズアップ現代+』ホームページより)
    瀧本哲史さん(『NHKクローズアップ現代+』ホームページより)
  • 瀧本哲史さん(『NHKクローズアップ現代+』ホームページより)

「世の中を大きく変えたいと思うなら君はどうするの?」

   東京大法学部をトップで卒業して、外資系コンサルタント会社に就職という絵にかいたようなエリートだった瀧本さんは、28歳の時に負債1900億円を抱えたタクシー会社「日本交通」に転職した。傾いた会社で自分の実力を試してみたいと挑んだものの、見事に失敗し、逆に150人の従業員に、涙を流しながら解雇を通告することになってしまう。

   川鍋一朗会長は「おごりとか未経験さとか、理想と現実のギャップとか、ものすごく痛い思いをしながら学んだのでしょうね」と話す。そこで気づいたのが、「絶対正しい答えがあるんじゃないかと考えることをやめる」「バイブルとかカリスマの否定」「なすべきことは、したたかに生き残ること」ということだった。

   そして、リーマンショックや東日本大震災の混乱と不透明感の中で、若者に伝えたいことができた。「自分の人生は自分で考えて自分で決めていく」ということだ。本も書いた。『僕は君たちに武器を配りたい』『武器としての決断思考』『武器としての交渉思考』などで、読者は20~30代の学生や社会人だ。

   では、その武器とは何なのか。瀧本ゼミの元ゼミ生の城田一平さん(投資家)は「正しい意志決定のためには、自分でデータを集めて、思い込みや直感ではなく、客観的な根拠を持てということでした」と語る。前例優先や経験主義がはびこるこの時代をぶち壊すのは、信頼できるデータ・根拠とそれに基づくしっかりした論理だというわけだ。

   さらに、「社会はすぐルールが変わっていく。ブレない生き方というのは、下手をすると思考停止になる」「世の中を大きく変えたいと思うなら、君はどうするのって話ですよ。主人公はあなた自身なんだよ」と、もうほとんど革命のアジテーションである。いま若者に支持されている理由を、慶應大学医学部・宮田裕章教授はこう解説した。

   「コロナショックで一度世界が止まったなかで、経済合理性を最優先する社会から、命や人権、環境や教育などの重要な軸もあることが認識されました。自分は何を大切にしたいのか、自分にしかできないものは何なのという、個性のある生き方が重要になってきているのかなと思いますね」

   武田真一キャスター「取材しているなかで、瀧本さんの言葉で印象に残ったのは、(人生は)3勝97敗のゲームなんだということでした。でも、97敗しても悲観せず、挑戦し続けられるものでしょうかねえ、城田さん」

   城田さん「3回成功するためには、97回失敗してもいいのだよという励ましなんだと思います」

   目下の新型コロナ騒動を、瀧本さんならどう見ただろう。聞いてみたかった。

NHKクローズアップ現代+(2020年8月26日放送「2020年の世界を生きる君たちへ~投資家 瀧本哲史さんが残した『宿題』~」)

文   カズキ
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