「第2波は過ぎた?」といわれながら、一向に先が見えない新型コロナ禍。感染者数は増える中、熱中症という伏兵も現れて医療の最前線の負担は増しているという。NHKが密着取材を続けている川崎市の聖マリアンナ医科大学病院の現場を追った。
聖マリアンナ医科大病院は、クルーズ船の感染者以来半年間、主として重症患者を受け入れてきた。第1波では集中治療室(ICU)が満床に近くなることもあったが、7月には新規患者ゼロに。ところがここへきて、全国的に感染が拡大。20日現在で、ICU17床のうち11床が埋まっている。
これには理由があった。熱中症患者だ。70代の女性が運ばれてきた。熱は38.9度だが、他の症状は、頭痛、倦怠感、呼吸障害と、新型コロナと区別がつかない。コロナかもしれない。そこでまずは全員、コロナ対応病棟へ入れる。ここで10日間、検査で2度陰性になるまでを過ごす。
疲弊する医療従事者。院内感染の危険は常にある
20日現在の11床のうち、実は4床が熱中症だった。仕方がない。コロナ患者を一般病棟へ入れたら大変なことになる。4月、別の関連病院で大規模院内感染が発生して、80人が感染、14人が亡くなっている。この院内感染への備えも大きな負担になっていた。
同病院では、全患者800人以上を1日2回、細かく症状をチェックしていた。対策チームはスタッフの行動も、食事、マスク、消毒......と聞き取り、確認する。精神的負担も相当なものだ。これまで、職員からは1人の感染者も出していない。だが、プライベートの会食も旅行も帰省もなしだという。
NHKは全国の感染症指定病院に、「直面する課題」を聞いていた。ここでも、心理的、体力的に現場が疲弊していることが浮かび上がった。
聖マリアンナの藤谷茂樹医師(救急救命センター長)は、「第1波の時より、人々の警戒心が弱くなっている。市中感染を抑えないといけない」という。市中感染の広がりは、思わぬリスクをはらんでいることもわかってきたという。
4月に入院した50代の男性が先週、4カ月ぶりに退院した。しかし、酸素ボンベは手放せない。男性の肺のX線写真を見ると、白い繊維状のものが広がっている。ウイルスによる炎症が傷跡になったもので、正常な部分は半分にも満たない。もしもう一度肺炎になったら? 医師は、「残った機能が損なわれると命に関わる」という。
一方でこのウイルスの抗体は、しばらくすると減り始めるという研究結果が出ている。つまり、肺に深刻なダメージを受けている男性にとって、再感染は何よりも恐ろしい。藤谷医師は、「退院患者も、そうしたリスクにさらされている現実を知ってほしい」という。
「我々では市中感染はコントロールできないんです」と切実な訴え
報道では「第2波のピークは越えた」ともいわれる。が、藤谷医師は、依然として危機感を持っている。新たな懸念があるという。
今月初め、50代の男性が救急搬送されてきた。エクモ(人工心肺)を検討するほど重篤だったのだが、2週間後、男性は自力で立って歩いていた。医師までが「立ってるよ」と驚く回復ぶりだった。決め手は、ウイルス抑制剤「レムデシベル」の投与だった。
「レムデシベル」はアメリカの製薬会社の製品。世界中で使われているため、政府は一括して在庫を管理して、医療機関の申請で配給している。早期投与が有効だというので、先月からは、中等症患者にも出すようになった。そうなると、今度は在庫が心配になる。NHKのアンケートでも、医療機関はみな「在庫」を心配していた。が、国は数量を明かさない。
第1波以来の経験で、標準的な治療ができつつあるというのは、ホッとするニュースだった。しかし、アンケートで見る秋冬にかけての医療機関の懸念は深刻だ。スタッフの確保、コロナによる他の高度医療への影響、そしてインフルエンザとの混乱だった。
藤谷医師は、「院内と市中感染を起こさないことだ」という。「我々は病気を治すことはできますが、市中感染はコントロールできない。人にうつさないで、といいたい」
手洗い、消毒はしても、暑いからと、マスクをネグる人も目立つ。不要不急も3蜜もしばしば見かける。「緩んでるぞ」。医療の最前線の苛立ちが、よくわかる。
※NHKクローズアップ現代+(8月25日(火)放送「密着・医療最前線 "第2波"の苦闘」)