<なぜ君は総理大臣になれないのか> 理想と現実の狭間で苦悩する「真っすぐすぎる」政治家、小川淳也衆院議員17年のドキュメント

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   2019年2月、国会で厚生労働省の統計不正問題を鋭く追及する姿から「統計王子」としてSNS等で話題になった衆議院議員小川淳也。本作は、小川の17年前の初出馬から現在までを描いたドキュメンタリーである。コロナ禍での公開という興行的に最悪な状況ながら異例の大ヒットを続け、都内2館のみだった上映館は全国に広がっている。

「なりたいではなく、"ならなきゃ"なんですよ」

「なぜ君は総理大臣になれないのか」の一場面(公式サイトより)
「なぜ君は総理大臣になれないのか」の一場面(公式サイトより)

   「なぜ君は総理大臣になれないのか」。2016年夏、監督の大島新は現役国会議員に向ける言葉としては非常に挑発的なタイトルを冠した企画書を小川本人に持ち込んだ。それを見た小川は開口一番「いいじゃないですか、面白い!」とカメラの前で屈託のない笑顔を見せる。映画はそんな風にして始まり、民主党から初出馬をした2003年に遡る。香川で美容院を営む家庭に生まれ、高松高校、東大法学部、自治省(現総務省)に入省した青年が、キャリア官僚の道を捨てて選挙に出る。「政治家になりたいではなく、″ならなきゃ″なんですよ」当時32歳の小川は未来への希望のこもった使命感に満ちたまなざしで取材に答える。

   それから大島は小川と定期的に会うようになり、特に発表する予定もなかったが要所でカメラを向け続けてきた。長期に渡る交流を通して、大島には小川に対するある疑問が芽生え始める。彼は政治家に向いていないのではないか?政治家としては真っすぐ過ぎる小川の姿を通して、その疑問は観客にも伝染する。

   連発される現役国会議員の不祥事や逮捕、最近のニュースだけ切り取っても政治家という職業にクリーンな印象を持つのは難しい。そんな黒い世界を暗躍する力が政治家には必要だと私たちはどこかで感じているがゆえに、真っ当すぎる小川の姿は時に歯がゆくさせる。

   しかし、この映画は小川の政治家としての資質を問うているわけではない。問われているのは私たち有権者である。どれだけ国民のために尽くそうという熱意があっても党利党益に貢献し、出世しなくては影響力のある発言は許されない。小川のような確固たるブレない政治信条を持つ者ではなく、選挙で打ち出した公約を平気で無下にするような政治家に、このまま政治を任せていて本当にいいのか?理想と現実の狭間で苦悩する小川の姿を通して、大島は怒りにも似たそんな思いを私たちにぶつけてくる。

   間違っていけないのは、大島は決して小川の政治信条への共感を求めているのではない。右や左など関係なく、真っ当な政治家が政治をやる、そんな当たり前のことができていない社会に対する警鐘だ。コロナ禍の混乱で、政治が私たちの生活に直結していることが実感できた今はある意味でチャンスだといえる。近日中に予想される解散総選挙に向け、この映画が真っ当な政治家を選ぶ指針となるだろう。

シャーク野崎

おススメ度 ☆☆☆☆

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