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都合のいいように専門家を利用してきた安倍官邸。山中伸弥教授も「お飾り」程度に使うつもりか

   今週の新潮はトップで、外国特派員協会で尾見茂副座長が会見中に、西村康稔経済再生相が突然、専門家会議を廃止すると発表したことを取り上げている。

   要は、感染防止に前のめりになる専門家会議に、経済回復を優先したい安倍官邸が切れたということであろう。だが、これまで、専門家会議を都合よく利用して、自らの責任を逃れてきた安倍首相や西村のほうに非があることは間違いない。

   新潮は、専門家会議の12人のうち4人から話を聞いている。私などと違って学者さんや研究者たちだから、あからさまな批判はしないが、ここまで懸命に取り組んできたのに、慰労や感謝の言葉が聞かれないことに、内心穏やかではないようである。

   東京大学医科学研究所公共政策研究分野の武藤香織教授はこう話す。

   「危機の初動では政府よりも専門家が前に出る必要性は残るので、政府にはそうした専門家の動きを封じないようにしてほしい。また専門家の側も、政府や産業界など異なる立場の利害関係者と粘り強く交渉できないと、務まらないと思います」

   東邦大学医学部微生物・感染症学講座の舘田一博教授は、

   「(西村大臣には)少し配慮がなかったところはあったと思います。専門家会議主導と見られているから、政府主導に戻していきたいという思いもあるのではないでしょうか。(中略)結果、専門家会議が少し出過ぎたと思われた人もいるかもしれないし、政府にも、自分たちが考えているのとは少し違うように映ったのではないか。それが専門家会議の廃止につながったのかな、という気がします」

   新潮のいうように、役割分担がうまくできなかった、安倍官邸が思うように専門家たちを使いこなせなかったということだろう。

   また、オブザーバーであったにもかかわらず、何もしなければ42万人が死ぬなどと大げさに吹聴した北海道大学の西浦博教授の発言も、専門家会議にダメージを与えてしまった。東北大学大学院医学系研究科微生物分野の押谷仁教授がこういう。

   「試算の公表には反対でした。日本よりはるかに人口が多いアメリカの試算でも、死者は最大20万人とされていたのに、42万人は多すぎる。(中略)あまり現実とかけ離れた数字を出すと、そんなに死者が出るなら細々とした対策など意味がないのではないかと、人々が逆に対策をあきらめる方向に動く危険性があるのです」

   思い付きの小中高の一斉休校、思い付きの治療薬「アビガン」の早期承認要求など、専門家たちが呆れる暴走と、都合が悪くなれば専門家会議の皆様からの意見を聞きと、責任転嫁してきた安倍首相にほとほと愛想が尽きていたということだろう。

   政府は有識者会議も設置したが、そこに、感染症にもリスク管理にも素人の山中伸弥教授を入れたことにも批判が出ているようだ。ご本人も"お飾り"だけに使われるのは本意ではないだろうが、安倍官邸が考えているのはその程度のことではないだろうか。

   大本営発表で、連日100人を超える感染者が出たことを騒いでいるが、死亡者はまだ1000人に届かない。感染者の数で大騒ぎすることはない。無症状の若者から感染した高齢者を重症化させないためにどうするか、その一点に絞って対策をすればいいと、私は考える。

元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任。講談社を定年後に市民メディア『オーマイニュース』編集長。現在は『インターネット報道協会』代表理事。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、 『現代の"見えざる手"』(人間の科学社新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

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