最後の環の絵に「蝶々夫人」と「かぐや姫」を重ねていた
「私は両方の気持ちがわかるので、もっとこの二人を長く見たかった。嗣人は大金持ちのお坊ちゃまの設定。何不自由なく育ったので挫折なんて知らなかった。だからいつも自分が主役、『陽と陰』の陰になることなんて考えもしなかった。だから嫉妬と悔しさに狂ったのかもしれない。金子さんの演技が素晴らしい」
「印象深いキーワードがポンポン閃くストーリー展開でした。最後に登場した環の絵に、蝶々夫人とかぐや姫を重ねていた。『私は光でいたい』というセリフもかぐや姫に繋がっている。『自分に嘘をつくことが最大の罪です』というセリフは、『自分の才能を最後まで信じることが大事』と言い換えることができる。個展を酷評されたせいで自分を見失った嗣人。最終オーディションの結果を伝える時、『ある』『ない』とまるで花占いでもしているかのような環のケセラセラぶり。あのプッチーニですら、オペラ公演で大コケしたというのに。嫉妬に狂った嗣人。『おめでとう』の一言が言えず。自分の作品を道具で突き刺した自傷行為が痛々しい。金子さん、圧巻の演技だった。環を描いた絵を見ながら、何か遠くの方を眺めている眼差しが印象的でした。ぜひ環と日本で再会して欲しい」
「期待に胸膨らませた初の個展が酷評され、打ちのめされた心に突き刺さる環の無邪気な笑顔。カフェでの個展を提案され、再び差し込んだ光さえ、彼女の朗報に忽ち霞み、また暗闇へと突き落とされる。相手の成功を喜びたいのに、湧き上がるばかりの嫉妬心。そんな自分に苛立って、最愛の人に激昂して、更に自己嫌悪の渦へと堕ちてゆく嗣人。『歌を諦めてくれ...。』と懇願する彼を、ただ抱き止めるしかなかった環。自ら『光でいたい。』と願った環。『それが君の人生だ。』と穏やかに微笑むカフェのマスター。その瞬間、『芸術の道を究めるなら、他人に惑わされない』という彼の言葉が鮮烈なまでに脳裏に蘇りました。残された環の肖像画。どれほど請われても首を縦には振らなかった嗣人の彼女への想い。僅か15分とは思えない、映画鑑賞後のような充実感。米海軍士官との燃える様な恋に生き、やがて悲劇の末路を辿る蝶々夫人の魂の叫びと共に、心に深く沁み入る、まさに珠玉のサイドストーリーでした」