「台湾新幹線プロジェクトの軌跡を縦糸に、日本人と台湾人の温かい心の絆を描いた吉田修一の傑作小説『路(ルウ)』を、NHKと台湾の公共放送局PTSの共同制作でドラマ化した。5月16日にスタートした初回を、台湾に新幹線を走らせる日台の技術者たちの苦闘を描いた骨太のドラマだと思って観たら、ちょっとアテが外れた。
物語は1999年12月、東京の商社・大井物産を中心とする日本連合が台湾の高速鉄道の車両と電気システムの優先交渉権を獲得したシーンから始まる。ヨーロッパ連合有利との下馬評を覆して、日本の新幹線システムの導入が決まったのだ。
春香は日本に婚約者を残して台湾に長期出向してきた
大井物産の入社4年目の社員・多田春香(波瑠)は、新幹線プロジェクトのために台湾で設立された子会社への長期出向を命じられる。大抜擢であり、学生時代から何度も訪台するほどの台湾好きなのに、春香は台湾行きを躊躇する。春香の胸の奥には、初めて訪台した際に知り合った台湾人男性エリックこと劉人豪(炎亞綸)への切ない思いがあった。
日本に婚約者を残して台湾に赴く春香は、エリックへの思いとどう折り合いをつければいいのか悩んでいたのだ。ドラマではこちらがメイン・ストーリーのようだ。第1回では、放送時間の7割が春香とエリックの出会いと別れにまつわる話が占め、新幹線建設の話は3割ほど。日本の新幹線をそっくりそのまま台湾に導入しようとする日本側と、あくまでも台湾オリジナルの新幹線にこだわる台湾側の対立が、申し訳程度に描かれただけだった。
第2回以降では、春香とエリックの2人のほかにも、日本人技術者と日本人相手の高級クラブのホステス、戦前の植民地時代の台湾に生まれた日本の土木建築界の重鎮と旧制台北高校の同級生だった台湾人医師など、日本人と台湾人の様々なエピソードが、それぞれに絡み合いつつ描かれる。一方で、新幹線建設工事が本格化するにつれて、日本側と台湾側の対立も激化していく展開だ。
間口を広げるだけ広げた第1回を壮大な伏線として、全3回という枠の中で、いかに感動のドラマにまとめ上げていくのか......。竜頭蛇尾、羊頭狗肉に終わらないように願いつつ、日台の公共放送のドラマ制作者たちのお手並みをじっくりと拝見しよう。(3週連続土曜よる9時)
寒山