岡田惠和さんは、テレビドラマや映画、舞台で活躍されている脚本家です。私が日本テレビの制作局長を務めていた2009年に放送された連続ドラマ「銭ゲバ」が最初の出合いでした。
「銭ゲバ」は漫画家のジョージ秋山の原作で、極度の貧困から、殺人を繰り返しながら金銭と名誉をつかんでいく青年・蒲郡風太郎の物語です。場面設定としては、原作が発表された1970年代を再現するものではなく、リーマンショック後の派遣切りなど、2009年時の世相を色濃く反映させたものとなっていました。また、登場人物も風太郎などの一部のキャラを除き、ドラマオリジナルの人物が多かったのも特徴です。
キャッチコピーは「金のためなら、なんでもするズラ」でした。
主演の松山ケンイチさんの存在感が光り、話題を集めた思い出深い作品です。
東京オリンピックと高度成長時代へのオマージュを感じた「ひよっこ」
次に、私が岡田さんの作品に接したのは、2017年にNHKの「連続テレビ小説」で放送された「ひよっこ」です。
これは岡田さんのオリジナル脚本で、主人公は谷田部みね子(有村架純)です。生まれ育った奥茨城と農業が好きなみね子は、高校を卒業したら家業に専念する予定でしたが、東京に出稼ぎに出たまま帰らない父を探すことと、困窮する家計を支えるために集団就職で上京します。
ところが就職先の会社が倒産して、レストラン「すずふり亭」のホール係に採用され、近所の「あかね荘」へ転居して再スタートを切ります。やがて、人々の協力で記憶喪失になって帰ることのできなかった父を見つけ出し、父が帰郷したあとに、「すずふり亭」の従業員の秀俊(磯村優斗)と入籍するまでを描きました。
この作品は、生きていくことの厳しさと楽しさ、人の優しさが同居した傑作で、岡田さんのその時代(東京オリンピック・高度成長経済)へのオマージュが感じられました。
優れた脚本があり、演出・演者がそれにハマってうまくいったのだと思います。