舞台はクルーズ船だ。第2次世界大戦で使用された軍艦が、クルーズ船として約100人を乗せて出航する。乗客は日本人カップル(藤井美菜、オダギリ・ジョー)や、韓国の有力な国会議員(イ・ソンジェ)とその息子(チャン・グンソク)、ヤクザ、娼婦、若者、老人(アン・ソンギ)など。彼らは、クルーズ船が霧に包まれた未知の空間で浮遊していることを知り、生き残りをかけてさまざまな悲劇的事件を起こしていく。
「異端児」にしか表現できない迫力に身震い
生き残る人が少なくなっていく中で、他人を信じられるかどうか、登場人物たちの心は激しく揺れる。キム・ギドク監督は「人間なんてものは他人をコントロールすることは不可能であること」を前提に、自分を信じることを強調していく。それも自我などの精神論ではなく、物理的に人間とは「自然」であることを何度も訴えかけていく。
また、他人を理解するには、まず目を背けたくなるほどの現実を己の目で直視し、己の欲望に忠実であることを訴える。「私は自分の欲望に忠実に映画を撮り続けることで観客を理解することしかできない」というのが、インディペンデント映画にこだわり続けてきたこの映画作家の本音だろう。
密閉されたクルーズ船の中で、登場人物たちの「身勝手な欲望」の先にある「他者への理解」が本作の救いになる瞬間は、「映画界の異端児」にしか表現できないと感じさせる迫力があり、身震いした。
丸輪太郎
おすすめ度☆☆☆☆