専業主婦の村主塔子は、優しくてイケメンで高収入の誰もがうらやむ夫、幼稚園児のかわいい娘、孫の面倒もよく見てくれる義母と立派な邸宅に住み、〝何も問題のない生活〟を過ごしていた。しかし、10年ぶりにかつて愛した男・鞍田と再会してしまったことにより、瞬く間に不倫関係にのめり込んでいく。鞍田の助力もあり、鞍田と同じ建築会社へ再就職を果たした塔子は、徐々に人生が変わっていく。
原作は島本理生著の官能小説で、監督は『幼な子われらに生まれ』(2017)で第41回モントリオール世界映画祭審査員特別大賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子映画賞を受賞した三島有紀子。塔子役を夏帆、鞍田役を妻夫木聡、塔子の夫・真役を間宮祥太朗、塔子の同僚・小鷹を柄本佑が演じる。
激しいセックスが女性の「生」に風穴を開けるきっかけに
不倫を題材にした官能小説が原作で、R15+指定作品ということもあり、主演の夏帆と妻夫木聡の性描写がつい気になってしまうが、激しいセックスはあくまで主人公・塔子が女性としての「生」を模索する過程の中にあるものとして描かれている。かつて深く愛し合った鞍田も、モーションをかけてくる職場の同僚・小鷹も、「良い妻・良い母はこうあるべき」という世間がつくった尺度にがんじがらめになっていた塔子にとって、風穴を開けるきっかけにすぎない。
ただ、主人公が本来の自分を取り戻し、覚悟と意志を持って社会の中で生きていこうとすればするほど結末は切なく、原作とは大きく異なるラストシーンに胸が締め付けられた。
自分の意志を持った女性(塔子)は残酷なまでに強く、立場が逆転して女性を見上げる格好になってしまった男性(鞍田、真、小鷹)はなす術もなく、弱くはかない。センセーショナルなようでいて、じつは男女の恒久的テーマを描いた作品なのだが、三島監督の手腕と魅力的なキャスト陣によってとても見応えのある作品になった。
バード
おススメ度 ☆☆☆