井上由美子さんは、NHKの大河ドラマや朝ドラも手がける有名なテレビドラマの脚本家です。私が井上さんの作品に初めて興味を持ったのは、2005年11月に日本テレビで放送された終戦六十年スペシャルドラマ「火垂るの墓」でした。日本テレビの編成局長のときのことです。
原作は野坂昭如さんの小説『火垂るの墓』で、日本テレビは初めて実写化しました。兵庫県神戸市と西宮市近郊などを舞台に、戦火の下、親をなくした14歳の兄と4歳の妹が戦火の中を必死に生き抜こうとする姿を描きました。しかし、妹は栄養失調で衰弱死、兄も悲劇的な死を迎え、混乱の時代に蛍のように命を光らせた2人の悲しみと鎮魂を描いたものです。
親戚の冷たい叔母さん役の松島菜々子さんとその娘役の井上真央さんの好演が際立っていました。井上由美子さんの脚本は、非常にわかりやすく、石田法嗣さんと佐々木麻緒さんが演じる、死んでいく兄妹の悲惨さと、戦争とは何かということを考えさせられた作品でした。ドラマは20%を超す視聴率を獲得し、演出家たちも交えて食事会を開いたのが、井上さんとの最初の出会いでした。
14歳の妊娠と葛藤、出産を描いた社会派ドラマ
次に、私が制作局長のときの作品について。オリジナルドラマとして話題になったのが、2006年10月から日本テレビで始まったドラマ「14歳の母」です。これは未成年の妊娠と出産をテーマにした社会派ドラマでした。キャッチコピーは「愛するために生まれてきた」でした。「平成19年日本民間放送連盟賞(最優秀賞)」「第44回ギャラクシー賞」を受賞しました。
私立中学2年生の主人公(志田未来)は、恋人との間に子供ができてしまいます。しかし運命の相手と思えた私立中学3年の男子(三浦春馬)は頼りにならず、家族との確執も生まれます。最終的には、三浦春馬と共に成長し、陣痛で苦しいなか、子どもを産んだ後の夢として「お医者さんになりたい」と打ち明けます。
大変ショッキングな内容でしたが、回を重ねるごとに、14歳の主人公が自分が生まれてきた過程と、中絶するか産むかを悩みながら気持ちが変わっていく過程を丁寧に描き、意義深いドラマとなりました。
井上由美子さんは本当に素晴らしい脚本家、今も活躍に注目しています。