陰鬱な曇り空から窓に差し込む薄日が、物語を薄明かりで包む。物悲しく、ほろ苦く、でも冴え冴えと明るい最後の大勝負だった。主人公は、フィンランドで古美術商を営むオラヴィ爺さん。長く、美術品を価値のわかる顧客に仲介する商売を営んできたが、このところ、めっきり絵も売れなくなった。目利きとしての能力は変わらず一流だが、切った張ったのやりとりや、新規顧客の更新・営業はもう難しい。
あと1回でいいから、満足のいく仕事がしたい。掘り出し物を安く買い付け、本来の価値のわかる顧客へつなぐビッグディールを成立させたい。そう思い詰めていたとき、オークションで作者不明の名画に出会う。筆致やテーマから、あの画家だろうとあたりをつけたが、裏取りのためにカタログを閲覧するにも、店番は雇えない。
寒く静かなフィンランドの冬に描かれる人生の機微
そんな折、離れて暮らしている娘のレアが、孫のオットーに仕事体験をさせてほしいと頼んできた。シングルマザーの一人娘とは長く疎遠であり、そのうえ孫は補導歴があるという。古美術商の仕事は若者向けのアルバイトじゃないと断ったが、ほかに受け入れ先がないというオットーは勝手に店に押しかける。
どうせならと店番や調べ物を任せてみたら、態度こそ生意気だが、随所に商売人としての勘の良さと機転を見せるオットーに、次第にオラヴィは心を開いていく。
白髪に顎をぐるっと縁取るひげ、揃いのチェックの背広。老いて一線を退いたサンタクロースのようなオラヴィの鈍い動作と、寒く静かなフィンランドの冬の情景、どこか寂しい音楽が全体をアンニュイに染める。
長く没交流で亀裂の入った父娘関係にも、画廊の主人や羽振りの良い顧客が、オラヴィをいかにも時代に置いていかれた偏屈じじいのように扱う様にも胸が痛む。
果たして、老古美術商のサイコロはどの目を出したのか。大団円もある種の正解ではあるが、オラヴィ一家がたどった救いと後悔が混じるエンディングは、酸いも甘いも人生の一側面であると静かに教えてくれる。
ばんふう
おすすめ度 ☆☆☆