細野邦彦さんと私はいろいろな話をしました。細野さんの話は例えが上手く、いわば「哲学的」なのです。1969年4月から1970年の3月まで放送された「コント55号の裏番組をぶっとばせ!」を考えついたときの話は何回も聞いています。
NHKの大河ドラマ「天と地と」を強く意識し、「日曜日の20時台に最も視聴率が取れる番組を作る」ために、細野さんは旅館に泊まり込んでいました。朝まで考えぬいた挙句に、朝日を浴びようと窓を開けたときに、ふと「野球拳」に思いが至ったというのです。何日も何日もかかって、ようやく「野球拳」に出会ったということでした。
野球拳を企画に盛り込んだ「コント55号の裏番組をぶっとばせ!」は、大人気。進行役のコント55号も参加しました。萩本欽一がデイレクター役、坂上二郎が放送作家役の設定で、坂上二郎が野球拳に参加しお色気いっぱいの女性タレントたちとじゃんけんをして、負けたほうが脱衣するというものです。
番組がスタートして3カ月後の1969年7月には29.3%の視聴率を記録し、「天と地と」の27.6%を抜いたのです。
出演者と演出者の間には「企画」という深い川が流れている
次に印象に残る言葉は、多分「テレビ三面記事ウィークエンダー」で泉ピン子さんが降りたときのものです。「出演者と演出者の間には、深い川が流れている。企画という川だ。必ず距離をもって接しなさい」
泉ピン子さんが降板したのが残念だったのと、次の期待を新しい人に託すということだったと思います。
それから40年。ある日突然、日本テレビのドラマプロデューサーから携帯に電話がかかって来ました。ドラマのゲストに出演している泉ピン子さんが「渡辺弘はどうしているのか」ということでした。生田スタジオにお邪魔して、旧交を温めてきました。日本を代表する個性派女優の泉ピン子さんが「テレビ三面記事 ウィークエンダー」に出演していたときに、新入社員として入ってきた私を覚えていてくれたのです。