舞台は太平洋・日中戦争で敗れた戦後の混乱から復興へと向かう昭和の日本である。文芸雑誌の編集長である田島(大泉洋)は、とにかく女にだらしなく、複数の愛人を抱えていた。このままではイカンと観念するが、優柔不断で気弱な性格が災いし、なかなか愛人たちに別れを切り出すことができない。そこで、金にがめつい担ぎ屋のキヌ子(小池栄子)を雇い、女房役を演じてもらって愛人たちに会いに行く。
小説「グッド・バイ」は、太宰治が新聞連載を予定して13回まで書いたところで入水自殺を遂げ、絶筆となった。この未完の遺作を、ケラリーノ・サンドロヴィッチが独自の視点で完成させた舞台は高い評価を受け、その映像化である。
監督は「八日目の蝉」「ソロモンの偽証」の成島出。水川あさみ、橋本愛、緒川たまき、木村多江、濱田岳、松重豊といったひと癖もふた癖もある俳優が脇を固める。
小池栄子との凸凹ニセ夫婦のテンポいい掛け合いに絶倒
田島はダメダメな男なのに、なぜかモテる。その理由が分からない。しかし、妙に納得してしまうのは、田島を演じた大泉洋の雰囲気だろう。舞台では当たり役としてすでに高い評価を受けている小池栄子のキヌ子は、ガサツだが、男なら尻に敷かれたい女性特有の強さを持っている。
凸凹ニセ夫婦の「昭和を地で行くような掛け合い」がとにかく面白い。大変な修羅場を二人は迎えるのだが、クズの田島から「人を好きになることの尊さ」すら感じてしまう。二人の見事な芝居とキャスティングに拍手を送りたい。
テンポがすこぶる速く、マシンガンのごとく寸劇が繰り返されていく。この圧倒的なテンポは、飽きさせない演出ということもあるのだろうが、「行間を読ませない」という意味合いが強いのではないだろうか。ドラマ性を捨ることによって、「笑い」に連動性を与え、演劇と映画が同じ場所で共存して唸っているようにすら感じる。
「分かりやすさ」「素直さ」こそ昭和の魅力なのかもしれない。また、田島がモテる要因なのかもしれない。とはいえ、昭和のノスタルジイに浸る暇はない。日本映画の中で、稀有な喜劇作品となっている。
丸輪太郎
おすすめ度☆☆☆☆