「百万円と苦虫女」のタナダユキ監督の同名小説を、自身が監督、脚本で映画化した。北村哲雄(高橋一生)は美大出のフリーターだが、ひょんなことからラブドール工場で働くことになる。リアルなラブドールを追求する上司の相川(きたろう)に、「本物の女性の胸で型をとってみたい」と懇願され、不本意ながら考え出した案が、医療用乳房を作るための美術モデルを募集するというウソだった。
そこに美しい女性、園子(蒼井優)がモデルとして現れる。哲雄が園子の胸を触ったことから、二人は恋に落ちるという奇想天外なストーリーである。
ダッチワイフ「そのこ一号」には魂が宿っていた
衝撃的なシーンから映画は始まる。哲雄の妻、園子がベッドで復上死するのだ。園子は癌に侵されており、ラブドール職人である哲雄に「私を作って」という願いを託していた。
物語はいたって不純な動機から始まっている。哲雄はラブドール職人であることを隠したまま結婚する。ままごとのような夫婦に平穏な時間が流れ、少し退屈なように見えるが、その何気ない幸せな日々こそが、ラストの究極の愛のカタチに繋がっていく。
そうもっていくタナダユキのシナリオが見事である。そして、園子を演じた蒼井優が絵に描いたように純真で、美しさに溢れている。高橋一生が良い。二人をとり巻くラブドール工場の同僚達、温かい人柄のきたろうや渡辺えり、強面の社長、ピエール瀧と、演技が光っている。
哲雄が最後に作り上げた「そのこ一号」には魂が宿っていた。その姿を見た瞬間、観客は涙を流さずにはいられないだろう。ラブドール=ダッチワイフという、一つ間違えれば下品になりそうな話が、こんなにも美しく純粋なラブストーリーに仕上げっているのには驚かされた。「スケベで良い奥さんだった」という哲雄の最低で最高の台詞が、いつまでも胸に残っている。
PEKO
おすすめ度☆☆☆