新型コロナウイルスによる肺炎の感染者・発症者は、中国当局が発表しているはるかに多く、規模も大きそうだ。北海道大学の西浦博教授は、最新の患者データと日ごとの渡航者数から、中国国内の感染者の数をシミュレーションした。それによると、推計感染者数は当局発表の4倍以上の2万314人で、人から人への感染が発生し、爆発的に増え始め、制御不能に陥っている。
西浦教授はその理由を、中国当局による封じ込めの遅れとみている。注目したのは、12月31日(2019年)に武漢の衛生健康委員会が発表した症例だ。双方の肺に「浸潤性病変」が見られるのは、「通常の細菌性の肺炎ではなく、新型ウイルスによって引き起こされた可能性が強いことを示しています。しかし、中国当局は人から人への感染力は低いと発表しました」という。
台湾保健当局の医師は、武漢封じ込めの甘さをこう指摘した。「しっかり隔離できる病室が2つしかないのに、どうやって40人以上の感染者を入院させたのか。人から人への感染という認識が足りない」
政府が武漢の封鎖を行ったときには、すでに30万人以上が国外へ出てしまった後だった。
日本はいま国内大流行の入り口
コロナウイルスは変異しやすい。群馬大学の神谷亘教授によると、コロナウイルスは遺伝子の長さがインフルエンザウイルスの約15倍あり、ウイルスが動物の体内で増殖するときにコピーミスが起きやすい。「変異が起き、感染力の強いウイルスが生まれ、世に放たれる可能性も高い」という。
香港の研究チームは、無症候性の感染、つまり感染しても症状がないケースもあると報告している。「本人も自覚のないまま、周囲にウイルスを広げる"歩く感染源"となっている可能性もある」と指摘した。
国立感染症研究所の元インフルエンザウイルス研究センター長の田代眞人氏は「中国・武漢で発生した新型コロナウイルスは、最初の段階で封じ込めができれば、世界中に広がらないですみましたが、タイミングを逸しました。日本で武漢滞在歴のない感染者が現れたことは、人から人へ感染したと判断してよい。新型コロナウイルスは、海外での感染流行の広がりというフェーズから、日本国内の流行の拡大の入り口に入ったのではないでしょうか」と言う。
SARSは肺や気管支の下気道でウイルスが増殖したが、新型は上気道、つまり喉や鼻でもウイルスが見つかっていると指摘し、「肺炎症状が出ていないまま、会話による飛沫感染で広がる可能性もある」と警告した。