「スーパーJOCKEY」の名物コーナー「熱湯コマーシャル」が完成するまでのいくつかの変遷について話したいと思います。
以前から、"熱い風呂に入って我慢する"という企画コーナーはありました。それを"素人で何かPRしたいことを持っている人たちを番組で募集し、熱い風呂に我慢して入った時間だけPRできる"という企画はどうかと言い出したのは、番組の構成作家の河村達樹さんです。
それは面白そうだということで始めてみました。最初は美術の荒井亜和さんに発注して、透明で横長の浴槽の底にお尻がついているかどうかを判定する装置を作ってもらいました。応募してきた素人の出演者(挑戦者)のお尻が装置についている間だけ、赤いランプが点灯し、その間だけアナウンサーが用意したPRコメントを読み上げるというものでした。実際、暑さに我慢できずにお尻が上がるとPRはストップ。一息ついて再びお尻をつけるとPRも再開。しかしこれでは、コメントが途切れ途切れになり、分かりにくかった。
それを見ていた司会のビートたけしさんが、私を呼んでこう言いました。 「まず入るだけ入ってもらって、その入った時間だけ本人が、後から別セットのお立ち台でPRコメントを読んだらどうか」
それを聞いた私は、すぐに実行。確かに、PRは分かりやすくなりました。
次に出てきたアイデアは、構成作家の沢口義明さんが考えた画期的な "熱湯ルーレット"。それは、スタジオの上手(かみて)に置かれた、挑戦者のほかにレギュラー出演者、ゲストなどの名前が書いてある大きな円形のカラフルなパネルです。挑戦者がボタンを押すとパネルが回り始め、止まったときに、パネルについている大きな針が指している名前の人が熱湯風呂に入るというものです。実際にやってみたら大ウケでした。
さらに出てきたアイデアは、特定の人だけ名前の枠を大きくしてルーレットが当たりやすくするというものです。
これも、当たりました。
ボン・ジョヴィが熱湯風呂に入った飯島直子を氷で応援
次に出てきたアイデアは、私が出したもので、"スタジオでの生着替え"です。熱湯風呂に入ることが決まった人が、スタジオの中央に出てきた簡易着替えセットに入り、制限時間の中で水着に着替えるというものです。これも話題になりました。
次のアイデアも私が出したもので"天井カメラ"です。これは、生着替えセットの真上の天井に無人カメラを設置して、着替えの様子の遠い絵を一瞬、短いカットで撮るというものです。
これも話題になりました。
こうして、いろいろな人たちのアイデアで「熱湯コマーシャル」というコーナーが完成し、日曜の昼間のテレビの名物コーナーになったのです。
今でも印象に残っているシーンが数多くありますが、一番はグラミー賞も受賞しているアメリカのロックバンド、ボン・ジョヴィがゲスト出演したときのことです。「熱湯コマーシャル」でボン・ジョヴィのPRをすることになり、"熱湯ルーレット"の結果、番組レギュラーの飯島直子が入ることになりました。 "生着替え"や"天井カメラ"の導入前でしたので、生放送で飯島直子が控え室で着替えをしているのを待つしばらくの間ができました。
その間は台本がありません。すると、番組レギュラーのたけし軍団の井手らっきょや松村邦洋たちがいろいろな芸をし始めました。たけしさんがそれにからんだりして、飯島直子の水着姿を待つ期待感もあって、結構長い時間が十分に楽しくて"もつ"時間になったのです。
飯島直子が水着姿で戻ってくると、スタジオがどよめきました。彼女が熱湯風呂に入ると、それまでじっとしていたボン・ジョヴィのメンバーが目の前で進行していることの意味を肌で理解し、全員で風呂に氷を入れ始め、彼女を応援して、スタジオ全体が大盛り上がりになりました。
そのとき私は思いました。
バラエティー番組の基本的な考え方は「芸人を追い込む設定を作り、芸人が爆発する素材を提供し、それをうまく、早く撮っていくことだ」と。