幼保無償化2カ月――保育士が足りない、自治体予算が足りない!国の思いつき施策で現場はてんやわんや

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   消費税の増税分のうち年間8000億円を投じてスタートした幼児教育と保育の無償化の現場で、新たな問題が起きている。子供を預けて働きたいという保護者が自治体に殺到し、保育士不足が深刻になっているのだ。

   無償化の対象は、原則として3歳から5歳までの子供がいる世帯で、これまで保護者が払っていた保育料が自治体を通じて税金で賄われるようになった。無償化をきっかけに、延長保育を利用する家庭が大幅に増えた。

   神奈川県川崎市の等々力保育園は、これまでの1.5倍近い子供を預かる日が多くなったが、保育士の数は変わらないため、忙殺されている。トラブルも増えるし、今までできていたことができなくなるという問題も表面化してきた。

   保育士をもう1人増員して配置したいと思っているが、それが難しいという。保育士の有効求人倍率は3.05倍で、全職業平均の1.57倍の2倍近くにまで上がっている。等々力保育園はハローワークでは保育士を見つけられなくなり、人材派遣会社に連絡した。人材派遣会社に紹介料を払うのもやむを得ないと園長は話した。週3日勤務できる保育士を依頼したが、給与・労働条件が折り合わず、派遣できないと言われてしまった。

定員に空きがあっても受け入れ無理・・・かえって増えそうな待機児童

   幼保無償化について、NHKに寄せられたメールには、保育現場の課題がさらに深刻化したという声が相次いだ。「低賃金で事務処理は増え、疲弊する毎日」「預かる子供が増えて仕事が倍増。助けてください」など、厳しい現実は保育士の離職にもつながっている。

   保育士不足によって待機児童対策の見直しを迫られる自治体も出ている。全国の市区町村で待機児童数が4番目に多い岡山市は、無償化が始まった10月の入園希望者は、前年比118%と大幅に増加した。だが、保育士が確保できず、待機児童が解消するめどは立っていない。市内の認定こども園「こじかこども園」(定員135人)は空きが20人分あるが、保育士が足りずに受け入れができない。

   岡山市は待機児童解消のため、この5年で市内57カ所に保育施設を開設し、約5000人分の受け皿を整備してきたが、保育士不足で約3割の保育施設で定員まで受け入れられずにいるという。この2年で待機児童数を849人から353人まで減らしてきたが、この10月は33人増え、待機児童ゼロの目標達成は難しくなっている。岡山市では今年度で終える予定だった、保育士の賃金を上乗せするための補助金の継続と増額を検討せざるを得なくなっている。

   慶應義塾大学の中室牧子教授は「待機児童の受け皿を32万人分つくると政府は言いますが、シンクタンクの調査によると、90万人の待機児童がおり、受け皿は十分ではないという指摘もあります」と話した。

   無償化によって生じる新たな財政負担に頭を悩ませる自治体もある。子育て世代が増えている埼玉・和光市の歳出順位の1位は「保育関連事業費」。幼保無償化で歳出が増える分について、地方自治体に入る消費税の増収分で賄い、歳出が増収分を上回っても、交付税で負担するとしていると国は説明する。しかし、和光市のように財政力のある自治体には、不足分は交付されず、赤字になる恐れが出てきた。

   和光市は消費税の増収分を幼保無償化に全額投資しても、1億8000万円の赤字になってしまう。待機児童数全国1位の世田谷区でも3億円の持ち出しになる見込みだ。中室教授は「保育士の処遇についても、"足りない、集まらない"という現状を改善すること」の必要を力説した。

   NHKクローズアップ現代+(2019年12月17日放送「幼保無償化 現場で何が~少子化対策をどう進める~」)

文   バルバス
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