中国ではWeChat(ウィーチャット)が生活に欠かせないSNSになっていて、約9億人が利用している。中国版「LINE」のようなものだが、実名、住所、身分証番号、銀行口座の個人情報を登録すると、電子決済はもちろん、年金の支払い、病院やホテルの予約、交通違反の罰金の支払いまでできるという。ビジネスシーンでは名刺の代わりにID交換が行われる。
ただ、深刻な問題もある。1つ目は3億人のIT弱者が完全に無視されていることである。15年近く上海で暮らしていたフリージャーナリストの姫田小夏さんは、「ウィーチャットなしでは中国では生きていけません。レジにはおつりが入っていないんです。コインもお札もありません。これはもうスマホを持っていない人は来ちゃダメ、と言われているに等しいですよ」と話す。
スマホが使えない高齢者は、子どもや孫が一緒じゃないと買い物や外食もできないというのだ。しかし、姫野さんが取材したある中国人男性は、「高齢者なんか気にしていたら中国は発展しない。人口の2割を切り捨てるのが中国のやり方だ」と言い放ったという。
当局に目をつけられたらアカウント凍結!世界で最も厳しい検閲
2つ目の問題は当局による監視だ。国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルは「ウィーチャットは世界で最も厳しく検閲されているアプリだ」と警告している。当局に都合の悪いキーワードを使った情報は送受信できず、動画や画像は強制削除される。利用者はそれを知っているので、当て字や暗号を使って会話する。
当局の判断で強制的にアカウントが凍結されてしまうこともある。天安門事件から30周年の追悼集会を取材したBBCの記者は、写真をウィーチャットに投稿したらアカウントを凍結された。ブロック解除のために、自撮りの顔写真と声の登録を要求されたと言うから、どうやら要注意人物のリストに載ってしまったようだ。取材相手も、いる場所も筒抜けだから、これからの取材活動はものすごく大変になるだろう。