「子ども虐待の連鎖」親も叩かれたり蹴られたりした過去・・・それが当たり前だと思っていた

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   虐待によって年間50人を超える子供の命が失われている。児童虐待相談対応件数は年間約16万件と過去最多だ。どうしたら減らすことができるのか。虐待をする親は心の内に何を抱えているのか。これまで200人以上の虐待する親と対話を重ねてきた心理カウンセラーの松林三樹夫さんのカウンセリングの現場から見えてきたものは、虐待する親たちからもSOSが発せられていることだった。

   この日、松林さんのもとを訪れたのは30代の母親は、「手が出ちゃう。考える間もなく手が出ちゃう」と訴えた。妊娠を機に仕事を辞め、専業主婦として2人の子供を育てている。2人目の子供が生まれてから長女の子育てに悩み、手を挙げるようになったという。

   女性が松林さんに打ち明けたのは、夏休みのある出来事だった。風呂場で子供たちがシャンプーを浴槽に流したのを目にしたとき怒りが爆発し、子供を風呂場に閉じ込めて冷たいシャワーを浴びせたという。この女性がなぜ怒りを爆発させてしまったのかを探るため、松林さんは女性にクッションを子供に見立てて叩くように促した。女性はクッションを叩き続けた。この後、松林さんがその怒りの元は何か問いかけると、女性は「自分や現状への不満」と言い、両親が離婚したため、この夏休みに実家に帰れず、ストレスをため込んでいたことを告白した。

わが子に暴力振るう40代男性「父親との楽しい思い出ない」

   松林さんのもとに通い始めて2か月目の40代の男性は、小学生の子供たちに暴力をふるい、今は別居している。虐待のきっかけは、子供たちがカップラーメンを作る時、付属のかやくをこぼしたのを見てカッとなり手を上げたことだった。この日のカウンセリングで男性は幼少期の体験について語り始めた。「寂しい人生でした。夕食を楽しく食べたことがない。怒られたり叩かれたりするので、父とは顔を合わせたくなかった」と語った。

   男性は、自分が子供にしてしまったことと、自分が父親にされたことがつながっていたことに気づく。1週間後、再び訪れた男性に対し、松林さんは「エンプティ・チェア」という手法を行った。誰も坐っていないソファに相手がいると想定して語り掛け、次にそのソファに座って相手の気持ちになって自分に語るのだ。

   虐待の連鎖を断ち切るため、自らの親と直接向き合った父親もいる。カウンセリング8か月目になる20代の父親は、3年にわたって妻と子どもに暴力を振るってきた。カウンセリングで、怒りの根源に母親からの暴力があったと気づかされ、母に自分の気持ちを伝えるメッセージを送った。「俺が小さい頃から叩いたり蹴り飛ばしたりしてしつけてたよね? それが普通だと思ってたけど、それは虐待だったんだって! 俺はお母のせいにしたくて言ってるんじゃない。たった1人の母親なんだからこれからもよろしくね」

虐待親たちの再出発支援

   エンプティ・ソファに語り掛けていた40代男性は、3か月後に変化があった。子供たちへの思いが日に日に募り、子供たちの運動会に参加することを楽しみにしてきたが、運動会前日になって児童相談所から子供への接触は控えるように連絡を受けたという。児相を責める男性の気持ちを受け止めたうえで、松林は自分が変わったことを児童相談所に示すことが大事だと伝えた。

   クッションを叩き続けた30代の女性にも変化が見られた。ある日、公園を歩いている子供が転ぶのを見たという。駆け寄った母親は、子供を抱きしめるかと思ったのに、子供の頭を叩いた。女性は勇気を出して母親に「あんまり自分を責めないで」と声をかけた。女性と母親はその場で抱き合って泣いたという。「助け合いのある世の中になってほしい」と女性は話した

   武田真一キャスター「"人は変われる"という言葉がありますが、そのためには時間をかけて自分と向き合い続けるという作業が必要だということがよくわかりました」

   子供の虐待を扱った小説「きみはいい子」を書いた小説家・中脇初枝さんは、「その人が置かれている立場や状況というものを想像してもらう。想像することで声をかけたり、見守ったり。それが支援につながったりすると思う。想像力が必要だと思う」と話す。

   虐待した親たちが再出発する道のりには、市町村や児童相談所から支援や指導を受けたり、精神科等の医療機関や民間の更生プログラムなどがあるが、まだハードルは高い。自らも虐待を受けた経験があり、現在は子供の虐待防止の活動に取り組む島田妙子さんは、「このように支援してくれるところに自分で行けない人もいるので、一歩踏み出せるように多くの人が手助けできれば虐待はきっとなくなると信じている」と語った。

NHKクローズアップ現代+(2019年11月26日放送「虐待 親たちの"再出発"~カウンセリングの現場から~」)

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