大阪市の小学6年の女児が誘拐され、栃木県小山市で保護された事件で、伊藤容疑者の家の中から女児のものを含むSIMカード3枚が見つかった。犯行が計画的なものであることを裏付けるものだ。女児はSNSに張られたワナにかかってしまい、事件に巻き込まれてしまったわけだが、これは誰にでも起こり得ることだ。
10~18歳の子どもたちに対する調査(2019年4月、デジタルアーツ調べ)では、48.7%がネット上の友達に「会ってみたい」と答えている。ネット社会の問題に詳しい東京大学大学院の橋元良明教授は「顔が見えない相手の方が色々気兼ねなく話せる。自分の見せたいところだけ見せてやりとりができるというメリットがある」と話す。自分と共感してくれる相手に親近感を覚え、会ってみたいと願うのは当然の流れとも言えるが、もちろんそこには危険が潜んでいる。
ネット上に存在しない人間の方がウソっぽい時代
では、どうしたらよいのか。編集者の箕輪厚介氏は「デジタルとリアルは溶け合っていて、2つを分けるのは無理と思います。制限するより、SNSでもリアルな世界でも、同じように、犯罪者がいるし誘拐しようと近づいてくる人もいると教え、リテラシーを高める方が危険性を下げる」と話した。
実際、現実社会でSNSを避けて生きていくのはますます難しくなる。「ネットは危険と教える方が真実を見誤る気がします。今30代の僕らの業界で、名刺だけ渡されてネット検索で何も出てこなかったら、『詐欺師じゃないかな』と怖くなる。ネット上で存在しなかったらウソっぽいと思いますから」と箕輪氏は言う。
では、子どもたちは何歳くらいからSNSを使うべきなのか。「感覚値ですが、小学生ではSNSは早い気がします。リアルでも大人の言っていること信じちゃいますから。でも使っていて分かってくるってところもあるし...。失敗しながら慣れろというのは、こういう事件もあるし、乱暴です。悩みます」と箕輪氏。
元小学校教員でITジャーナリストの高橋暁子さんは「小さい失敗をくり返しリテラシーを高める」方法を提案する。「最初はラインなどで家族や顔が分かる知り合いとのみつながって、その中でちっちゃい失敗をしてください。いきなりツイッターなどで知らない人とつながったり、悪意のある大人も来てしまうような場にデビューしたりするのは問題がある。リテラシーが高まるまで、うちうちだけでつながって練習してほしい」
キャンベル氏、子ども時代の恐怖体験を語る
東京大学名誉教授のロバート・キャンベル氏は小学生のころ、ニューヨークで連れ去られそうになった経験を語った。知らない男に、キャンベル氏が当時集めていたコミックを見せてあげると誘われ、途中までついて行った。「知らない人のアパートに行ってはいけないということは教えられていたが、子どもにとって1つでも共感することがあると、自分と同じだと思ってしまう」と話した。
ロバート・キャンベル「リアルとネットの違いは段々なくなってきている。会いに行ってはいけないといくら言っても子どもは行ってしまう。だとすれば、どういう状況で会えばよいのか。例えば、みんながいる場所で会うとか、相手のラインのアドレスなどを友達に教えておくとか...」
高橋さん「今の子たちはネットでの知り合いと会うことに全く抵抗がない。隠れて会われてしまうよりは、最低限自分の身を守るための準備をしてから会ってほしい。会うのは明るくて人が多い場所で。事前に相手の連絡先も教えてほしいと伝えた方が現実的かなと思います」