楽しそうに絵付けをする深野心仙(イッセー尾形)の姿を見た喜美子(戸田恵梨香)は、その笑顔が従軍画家として地獄を見てきた絶望感の裏返しと知った。「この人の弟子になりたい」という自分の気持ちに気が付くが、父・常治(北村一輝)は聞く耳を持たない。
その常治は飲み屋「あかまつ」のカウンターで、たまたま隣り合わせになった深野と飲んでいた。常治はこの陽気な男が丸熊陶業の絵付師と知り、ドキリとする。絵付けの世界は相当に厳しく、深野の言う「珍しく来た女の子」というのは喜美子のことに間違いない。「あの子も辛抱できんやろなあ。華奢で力もなさそうやし。すぐに弱音を吐くやろな」という言葉を聞き、常治は思わず怒鳴る。
「吐くかいな。そんな根性なしちゃうわ。一人で大阪行って、3年の間働いて、盆も正月も帰らんと頑張っとったか。他のヤワなもんとうちの娘を一緒にすんな」
我に返って「しまった」と慌てるが、深野は「ほう、おたくの娘さんか」とニヤニヤと笑っていた。
お父ちゃんの大いなる勘違いで弟子になれた
喜美子が深野の弟子として認められたのは、「あかまつ」での一件からまもなくだった。毎朝6時には出勤して、絵付けの作業場を掃除したあと、ただひたすら新聞紙に何千、何万という線を引き続けるという修行の日々が繰り返された。「はよ追いつきたい思うてるやろうけど、近道はないねん」と深野は言った。
3年たった昭和34年。21歳になった喜美子は、青い空の下をきょうも自転車で丸熊陶業の仕事場へ向かう。(NHK総合あさ8時)