青田が美しい長野県のある村落で、幼女誘拐事件が起こった。必死の捜索もむなしく、犯人も幼女も見つからないまま12年後、また同じ村落で少女が行方不明になる。住民の疑念は、外国人の母親ともに村に住みついていた中村豪士(綾野剛)に向けられる。
12年前の事件で誘拐された幼女の親友の紡(杉咲花)は、豪士が犯人ではないと信じるが、一度火がついてしまった村人の不信感は瞬く間に膨れ上がり、もはや誰も止めることができない。
そんな時、Uターンで村に戻ってきたばかりだった田中善次郎(佐藤浩市)は、豪士の惨事に驚きながらも、普段は愛犬レオと穏やかに暮らしていた。しかし、自らが発案した村おこし計画がこじれて村人から拒絶されるようになり、次第に孤立を深めていく。そして、追い詰められた善次郎もまた、ある日、とんでもない事件を起こす。
いつの間にか犯罪者を作り出してしまう人間関係の不気味
監督は「64-ロクヨン-」「友罪」の瀬々敬久。吉田修一の「青田 Y 字路」「万屋善次郎」の2つの小説が基になっている。その小説も、今市事件(2005年。犯人逮捕2014年)と山口連続殺人放火事件(2013年)と、いまも多くの人が記憶している実際の事件がモチーフだ。
折に触れてスクリーンいっぱいに映し出される美しい田園風景が、人間が人間らしい生活を送るための満ち足りた楽園を思わせる。豪士も善次郎も、この地に自分だけの楽園を求めて、不器用に、でも精一杯コミュニティになじもうとするが、うまくいかない。
そして、紡や村人たちの誰もかれもが、二人と同様に常に心のどこかが渇いていて、誰かに孤独から救ってもらいたいと渇望している。誰が犯人かということが一番重要なのではない。それよりも犯罪者を作り出してしまうコミュニティのあり方を改めて重く考えさせられる。
ぐいぐい物語に引き込んでいく綾野剛の演技力に脱帽
どの役も複雑な事情を抱えた難しい役どころながら、役者たちの演技は素晴らしい。とくに、近年、コメディからシリアスものまで幅広いジャンルの役柄をこなし、各作品でインパクトを残している綾野剛は、本作でも観る者をぐいぐいと物語に引き込み、その高い演技力には脱帽だ。
さらにその脇で、東南アジア系外国人の母親役を演じる黒沢あすかの怪演も必見。今年もあと数か月と残り少なくなってきたが、2019年に観ておくべき作品の一つと言って間違いなしだ。
バード
おススメ度 ☆☆☆☆☆