毎日曇り空のイギリスを舞台に、寄る辺ないおじさんの自分探しが始まる。エリックの職業は会計士で、郊外に持ち家があり、妻と中学生の息子と3人暮らしである。幸せでない訳じゃないけれど、上司のいいなりになって数字を取り繕うのにも、妻が一念発起して地方議員に当選して自分をないがしろにしているように見えることにも、息子が自分に対して反抗的にことにも納得はいっていない。
日々のストレスは、プールで泳ぐことで解消する。仕事を終え、無心で水に潜る。いたって内省的に、これ以上ないくらいに静かに心を落ち着かせているのに、妻は怒り、息子は自分を小馬鹿する。
と、ここまではエリックの言い分。実態はというと、上司からは都合の良い部下としか思われていない。妻はエリックに自分の挑戦を応援して欲しいだけなのに、非協力的だったり、自分と男性議員の不倫を疑ったりするエリックに失望している。頑固一徹で悪い人間じゃないけれど、思い込んだら軌道修正が難しく、自分から歩み寄る努力ができない男。
仲間と目標に向かって力を合わせる喜び
そんなエリックはあるとき、いつものプールでバタバタと水面を叩く男たちに出会う。男のシンクロなんて気色悪いと思っていたエリックだが、「ここでは全てを忘れられる」「互いに詮索はしない」「練習でだけ繋がる仲だ」という男たちの、ゆるやかな連帯に心惹かれ、チームの一員となる。
浮気疑惑の妻と一緒にいるくらいならと家も飛び出し、ホテルで借りぐらし。できなかったことができるようになる喜び、仲間と一つのものを作る喜び。たとえそれが水遊び、お遊戯の延長にしか見えなくとも、エリックの心はたしかにシンクロに癒されていく。
そんな中、チームに「世界選手権出場」の話がふって沸く。競技人口の少ない男子シンクロでは、ほそぼそと非公式に世界選手権が行われているのだが、今のところイギリスはエントリーがない。今なら、手をあげるだけで国の代表だ。俺たちが?と逡巡するが、どこかこれまでの人生で後悔した思い出があり、それを埋めるために水に浮いている男たちに、国の威信をかけて戦う誇り、というワードは思った以上に刺さった。