福井県の高浜原発に絡み、関西電力の経営幹部20人が、高浜町の元助役・森山栄治氏(故人)から、多額の金品を受け取っていた汚職は、どこまで解明されるのか。
関係者は、森山氏を「フィクサー、黒幕、ドン」と呼んでいた。地元の原発反対を抑え、運用をスムーズに進めるカギだったという。当時の町長、田中通氏は「関電に関しては口を出せない状態だった。どちらが町長だか」という。石川与三吉・福井県議は「森山氏のおかげで地元との関係がうまくいった。関電は頭が上がらない。生き神さまだった」と話した。元町議会議長の的場輝夫氏は「歪んだ関係の上に町が成り立っていた」
1977年、高浜原発3、4号機の建設が決まったが、工事が始まる直前の1979年、アメリカのスリーマイル島の原発事故が起こった。高浜でも反対運動やデモがあり、反対派が町長選に立候補する動きもあった。森山氏はこれを力で切り崩した。
関電からの寄付金が役場関係者の個人名義の口座に振り込まれていたと、議会で問題になった。しかし、漁協に3億7000万円、道路に5億4000万円が使われていたとして、「問題なし」とされた。この他にも、28億円もの寄付金が町に入っていた。
事故のたびに増加していく地元対策費
森山氏は87年、助役を退いて、関電の子会社「関電プラント」の顧問になった。原発関連の工事を発注する会社だが、森山氏は同時に、関電プラントから仕事を受注する会社の副社長にもなっていた。その会社はさらに地元業者に仕事を発注する。つまり、発注と受注と両方に関わったのだ。地元業者への仕事の割り振りを一手に仕切る立場になった。
地元業者が言う。「上納金」として盆暮れに最低100万円。運転手が集めに回っていたという。さらに、「仕事を取ったら数%」が森山氏へ。関電幹部への金品贈答は90年代からだった。
さらに、もう1つの出来事が森山氏の立場を強めた。2004年に起きた美浜原発事故だ。原子炉の配管が破損して高温の蒸気が噴出し、作業員5人が死亡した。関電は翌年、大阪にあった原子力事業本部を美浜町に移し、幹部を常駐させた。森山氏がそこへ姿を見せるようになった。
当時ナンバー2だったのが前会長の八木誠氏で、彼も含めて金品を受け取っていたのは、いずれも当時の事業本部の幹部である。「本社への栄転」「昇進祝い」に商品券、金貨・・・。断ると森山氏は怒った。
会見で岩根茂樹社長は「森山氏との関係悪化を避けて、原発の安定的な運営をしたかった」といった。断れなかったというのだ。しかし、今回わかった3億2000万円は2000年代の金品だけだ。90年代の分はどうなるのか。
「死人に口なし」元助役にすべておっ被せてウヤムヤ
2011年の福島原発事故後の原発停止で、関電は大幅な赤字に陥った。原子力発電の割合が50.9%と突出(東京電力は31.7%、中部電力は12.3%)していたことが裏目に出たのだ。社長だった八木氏は原発再稼働に全力を注ぐ。高浜原発だけで、5400億円という安全対策工事を行い、森山氏の会社だけで214億円もの発注となる。森山氏は億単位の手数料が入り、関電幹部への金品の額も増えた。
この問題を取材したNHK福井の橋口和門記者は、「金品の授受は90年代から始まり、関電は森山氏に頼り、歪んだ関係を続けていました」という。
龍谷大の大島堅一・教授は「安全第一の原発で、特定の人物が絡むと、安全性に疑問符がつく。徹底した事実の解明が必要です。しかし、第三者委でも明らかにできるか疑問」という。
自治体への国の交付金は、原発1基あたり40年間で1400億円にもなる。電力会社からは、協力金、寄付金が入る。今回明るみに出たのは、巨額の原発マネーの、ほんのおこぼれに過ぎない。元の金額が大きすぎるのだ。
これまで黙っていた人たちは、「死人に口なし」と、森山氏におっかぶせるつもりだろうか。しかし、金品が電力会社の幹部へと流れたのでは、どう考えても筋が通らない。しっかりと口を開いてもらおう。
*NHKクローズアップ現代+(2019年10月23日放送「追跡 関西電力・金品受領の裏で何が?」)