昭和30年、川原喜美子(戸田恵梨香)が荒木荘で働き始めて2年半が過ぎようとしている。その秋に18歳になり、今では女中として荒木荘を立派に回している。ただ、2つの悩みがあった。1つは田中雄太郎(木本武宏)が下宿代を滞納していること。あれから映画出演の話もなく、収入がない。
もう1つは、少し前から荒木荘の前を通りかかる強面の男だ。ゴンという名の犬を散歩させているのだが、フンの後始末をしない。フンを片付けるはめになるため、注意したいのだが、男の顔が怖くてなかなかできない。
ある夜、早めに帰宅した新聞記者の庵堂ちや子(水野美紀)は、食堂で縫物をしていた喜美子に、美術学校の案内書を渡した。「わあ、ありがとうございます」と目を輝かせる。お金の問題もあり、まだ美術学校に行くかは決めていなかったが、ワクワクした。
「俺がガツンと言ってやる」と胸を叩いた酒田だったが・・・
そこに医学生の酒田圭介(溝端淳平)も帰ってきた。酒田は小児科に進むか外科に進むか悩んでいた。「あれ、ちや子さん、このところ帰りが早いですね」
ちや子は「また一人辞めた」と嘆く。このところ、新聞の売れ行きが悪く、退職者も後を絶たず、覇気をなくしている。
「あの、圭介さん、おはぎ食べます?」と聞く喜美子に、「あ、食べる、食べる。キミちゃんの作ったおはぎが好っきゃねん」と酒田は無邪気に答える。そして、ゴンのフン被害の話題になると、「俺が言うで。任しとけ。迷惑ですって、ピシャッと言ったる」と威勢がいい。
翌日、坂田と喜美子が荒木荘の前で待ち構えていると、犬を連れて現れたのは若い女性だった。しかも上品で美しい。女性は酒田と目が合うと、にっこりほほ笑んで会釈した。酒田も会釈をし、女性の後ろ姿をぼうっと見送っている。その様子に、喜美子の胸はなぜかチクッと痛んだ。(NHK総合あさ8時)