何種類もの薬を同時に服用する「多剤服用」の弊害が目立っている。とくに、高齢者が6種類以上の薬を飲むと、ふらつきや意識障害などを起こすリスクが高まりやすく、なかには徘徊など認知症のような症状を引き起こすケースもあるいという。
3年前に、うつや狭心症、不眠などで、同時に複数の医療機関にかかっていた80歳の女性は、合わせて12種類の薬を飲んでいた。ある日、異変が起こった。ふらつくことが増え、転倒して動けなくなり、寝たきりの状態になってしまい、夫の介護が必要な毎日になった。高齢者医療に詳しい現在の主治医は、女性が飲んでいた睡眠剤や安定剤が原因ではないかと考えた。
東京大の研究チームによると、老化によって肝臓や腎臓の機能が衰えると、薬が代謝・排泄できずに体内に蓄積しやすくなることがわかった。1つの薬なら副作用は少なくても、複数が蓄積されると症状が強く現れることがある。
この80歳の女性は、12種類の薬を5種類に減らしたところ、1カ月で歩行できるようになり、日常生活を取り戻すことができた。
花粉症薬や胃薬でも副作用重なると・・・
多剤服用のリスクを抱える高齢者は多い。7種類以上の薬をもらう人は、64歳以下では10%だが、75歳以上になると24%だ。神戸市の脳の専門病院では、認知症とされた外来患者の2割が、実は薬の多さに原因があった。85歳の男性は3年前に物忘れが急にひどくなり、認知症と診断され薬も処方されていた。
だが、この病院で診察すると、認知症の特徴である脳の萎縮は見られない。担当医が男性が飲んでいた16種類の薬のうち、鎮痛剤と睡眠薬の4種類を減薬すると、男性の物忘れは大きく改善した。
この研究を行った東京大学大学院教授で医師の秋下雅弘氏は、「基本的に、薬が多くなるればなるほど副作用は出やすくなります。この研究では、6種類以上服用している人の副作用発現率が高かったですね。代謝や排泄機能には個人差があるので、2種類でも問題が起きる人もいるし、10種類でも大丈夫な人もいます。自己判断はしないようにして下さい」と説明した。
中年層にも多剤服用のリスクはある。秋下教授によると、64歳以下の半数以上が3種類以上の薬を服用しており、「多剤服用予備軍」と言ってもいいという。「高血圧の薬、花粉症の薬、胃薬などでもそういうことは起こります」