台風19号による豪雨で全国各地で河川の堤防が決壊したが、東京都はゼロだった。巨大な地下調節地や公園を利用した遊水地など、さまざまな治水対策が機能したからだ。
水害ハザードマップで、江戸川区は一面真っ赤だ。東に江戸川、西に荒川、海にも面していて、超危険地帯なのである。今回、被害を防いだのは、通称「地下神殿」と呼ばれる首都圏外郭放水路と彩湖だった。「地下神殿」は地底50メートルを流れる世界最大規模の放水路で、雨水をため、川の氾濫を防ぐ。彩湖は埼玉県の荒川河川敷にある調整池で、中流で降った雨を貯めることができる。
東京都の都市開発に携わったリバーフロント研究所の土屋信行さんは、「荒川が氾濫すると、大手町や丸の内も沈んでしまいます。ローカルな要請だけでなく、日本として国の中枢を守るという意味で、お金がかかっても造ることができました」と話す。
もう1つのポイントは、江戸川上流の利根川にある八ッ場ダム(群馬県長野原町)だ。台風19号上陸の直前の10月1日(2019年)に完成し、試験湛水が開始されていたのだ。まだ空っぽの状態だったダムは、台風上陸後にはほぼ最高水位に達していた。約1億トンの雨水を上流で止めることになる。
ダムの活用法見直しで水害は防げる
土屋さんによると、新たな治水対策としてダムの運用方法の見直しが考えられているという。「多目的ダム法」では、JA、自治体、国土交通省など、水利権を持つさまざまな団体・組織がダム建設のお金を出し、それぞれの目的に利用する。
しかし、使用目的の「農業用」「生活用」などの比率を減らし、「治水用」を広げれば、災害を防ぐために役立つというのだ。どういうことか。3割程度だった治水用を、かりに6割に増やすと、台風が来る前に貯水の6割を事前放流することができる。
土屋さん「今はさまざまな気象レーダーなどがあり、どのくらいの雨が降るかというのも、おおよそ予測できます。そういう時代が来たのだから、水利権を持つものの間で折り合いを付け、治水で安全度を増そうという話し合いが始まりました」
司会の加藤浩次「もしそれができていたら、今回の氾濫や決壊を防げた可能性はありますか」
土屋さん「おおいにあったと思います。話し合いが早く進むことを期待しています」
新たな工事をしなくても、運用方法を見直すだけで治水になるなら、大急ぎで進める話なのではないか。
ピノコ