信楽での就職を取り消されてしまった喜美子(戸田恵梨香)に、父・常治(北村一輝)は大阪での仕事を見つけてきた。「わかった、お父ちゃん。ほな、うち大阪行くわ。お給料もろたら、テレビジョン送るわ」と笑顔で承諾した。本当は信楽を離れたくなかったが、家族のためだ。何より、家族に頼られているということが喜美子に強さをくれた。
中学の担任からは進学を進められた。喜美子は絵が得意なだけではなく、勉強もよくできたのだ。しかし、常治が「女に学問は必要ありません」と間髪入れずに断ってしまう。そして、「喜美子は大阪に働きに出て、仕送りをしてもらわんと。この子にそれ以外の道はありません」と担任に告げた。喜美子にはどうすることもできなかった。
タヌキの道の向うに見える夕日を目に焼き付けた
喜美子は同級生の熊谷照子(大島優子)と大野信作(林遣都)に道場に呼び出された。照子はいきなり組手してくると、喜美子に抱きついて離さない。
「なんや、これ柔道ちゃうねん。離せ」と喜美子が抵抗すると、照子はますます力を強める。「離さへん。うち、婦人警官諦めたんやっ。お兄ちゃんが亡くなったから、丸熊はうちが継がなあかん。うちは一生、信楽や。信楽捨てるんけっ、許さへんで。大阪、いったらあかん」
最初は怒っているように聞こえた照子の声は、だんだんと泣き声になっていった。
その夜、喜美子は薪を焚きながら、風呂に入る父ちゃんに話しかけた。「うちは信楽の子や。信楽が好きや。お父ちゃんと、お母ちゃんと、みんなと、ここで暮らしたい」とやっと本当の気持ちを口にした。堰を切ったように涙があふれてきた。
肩を震わせて泣く喜美子に、風呂の中から常治が「タヌキの道の先に行ったことあるか」と聞く。「細い道を行くとな、パァって開ける。そこから見える夕日がきれいや。目に焼き付けとけ」
次の日の夕方、喜美子はその場所に向かった。(NHK総合あさ8時)