「人々に力を与える物語を伝えていく使命があります」
ローチは「映画監督として心がけているのは、『搾取や貧困を始めとする弱者が置かれた現実をどう伝えるか』です。映画を通して社会の構造的な問題を明らかにし、解決に導くべきだと考えています」と話す。
是枝「日本はいま、実際に不正をして、搾取をしている人たちは誰なのかというところに、目が向きにくいようになっています。政府がメディアを巻き込んで、非常に上手に自分たちに批判が向かないようにしているからだと思います」
ローチ「メディアにとって、国益とは富裕層や権力者の利益を意味しています。だから、何か問題があると、移民のせいだとか、労働者が怠け者だからだとか、さまざまな理由を示すのでしょう」
社会に押しつぶされそうな、「声なき声」をリアルに伝えるための演出手法でも、ふたりには共通点がある。役者に台本を渡さず、そのつどセリフや状況を伝える。ローチのこの手法は是枝にも影響を与えてきた。現場の状況に応じて台本を柔軟に変え、より自然な演技を引き出すのだ。
ローチ「私は、映画を通してごく普通の人たちが持つ力を示すことに努めてきました。弱い立場にいる人を、単なる被害者として描くことはしません。なぜなら、それこそ特権階級が望むことだからです。彼らが最も嫌うのは、弱者が力を持つこと。だからこそ、あなたが映画で示してきたことは、重要なのです。私たちには、人々に力を与える物語を伝えていく使命があります。自分たちに力があると信じられれば、社会を変えるかもしれない」
*NHKクローズアップ現代+(2019年9月17日放送「是枝裕和×ケン・ローチ "家族"と"社会"を語る」)