今月(2019年9月)行われたベネチア映画祭で、是枝裕和監督の最新作「真実」がオープニング上映を飾った。カトリーヌ・ドヌーブが演じる仕事中心に生きてきた俳優の母と、その母の愛情を感じられずに生きてきた娘の物語だ。これまでも育児放棄された子どもや貧困に苦しむ人々など、揺らぐ家族の姿を描いてきた是枝監督は、最新作の完成直前に長年影響を受けてきたイギリスの巨匠、ケン・ローチ監督を訪ねていた。
「監督デビューしたときに一番指針となった人で、憧れの存在」と是枝監督が言う。半世紀以上にわたり、社会の矛盾を告発する映画を作り続け、この冬に公開される新作「家族を想うとき」でも、劣悪な労働環境に引き裂かれる家族の姿を描いている。2人は、世界で進む「家族の崩壊」について語り合った。
社会矛盾のしわ寄せが家族に
ローチ「いま労働者は力を失い、そのしわ寄せで、家庭の貧困化や家族の崩壊が起きています」
是枝「『万引き家族』公開時には、"犯罪を擁護するのか""自己責任だろう"という意見がネットを中心に飛び交いました」
ローチ「私も"お前は国の敵だ"と批判されました。それは、社会を支配している者たちにとって、自分たちの利益こそが国益だからです」
スタジオで武田真一キャスターに、家族を描き続ける理由を問われた是枝監督はこう語った。「うーん、わからないから面白い。もっと知りたいと思っているからでしょう。家族とか母とか父、子どもを、"こうあるべき"と考えるべきではないと思っているので」
「地域や学校、いろんな共同体が形を変えつつあります。そんなときに、人がすがる最後の共同体が、もしくは最初の共同体が、家族なのだと思います。しかし、そこにいろんなしわ寄せが来ています。だから、いろんな事件が家の中で起きているのでしょう」