とある事件にかかわったヤクザの島(豊川悦司)は、日本を離れ、世間から身を隠すように台湾・台北で暮らしていた。そんな島の前にある日、チンピラ風の男・牧野(妻夫木聡)が現れる。牧野はお調子者でなれなれしいが、どこか憎めない雰囲気を持つ男で、やはり件の事件に関わったことで日本のヤクザから命を狙われていた。それを知った島は、牧野を連れて台湾東部の街・花蓮へ向かう。場末のスナックに立ち寄った二人は、そこで働いていたシャオエン(ニッキー・シエ)という女性と出会い、追手の目をくらますため彼女の屋敷に居候することになるが...。
監督は、「フラワーズ・オブ・シャンハイ」「プラットホーム」などのアジアの作品をはじめ、最近では「聖の青春」「娼年」「ハナレ・ベイ」など、数多くの映画音楽を手掛けてきた半野喜弘。本作では、監督・脚本・音楽を担当している。
どこまでが現実でどこまでが主人公たちの幻想なのか
豊川悦司と妻夫木聡のダブル主演、さらにテーマ曲は坂本龍一が担当という豪華メンツで、それだけでも期待が高まるが、まず俳優二人のファンは観て正解。役のキャラクター上、豊川悦司は台詞が極端に少なく、また妻夫木は明るい性格の裏に救いがたい孤独な一面を持つ。いずれも難しい役どころながら、息の合った演技でそれぞれの心理や、揺れ動く微妙な距離感をうまく表現している。また、物語のキーパーソンとなるニッキー・シエもチャーミングで、観る者に強い印象を残す。
良くも悪くも「語りすぎない映画」。昨今の映画作品は、どうも説明的な表現に偏りがちなものが多いが、本作は解釈の自由度が高く、どこまでが現実でどこまでが主人公たちの幻想なのか、ラストシーンに至るまで観客の想像に委ねる部分が非常に大きい。だからこそ見応えがあり、映画ならではの醍醐味をぞんぶんに味わうことができる。ただし、「なぜ、見ず知らずのチンピラ風な男2人をいきなり自宅に泊める気になれるのか?」等、常識的に考えて「?」な部分もちらほら。これも説明的な要素をあえてそぎ落とした結果なのだろうか。やや監督の意図が読めない。
台湾ならではの熱帯的な空気や色彩が美しく、見どころの一つ。1990年代のウォン・カーウァイ、トラン・アン・ユンなどの作品が好きな人は、より楽しめるだろう。
バード
おススメ度 ☆☆☆