宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」が小惑星「りゅうぐう」に再着陸し、地下の岩石採取に成功した。太陽系の誕生や生命の起源解明につながる世界で初めてのミッションには、さまざまなドラマがあった。
再着陸にはJAXA内部に慎重論があった。「はやぶさ2」は今年2月(2019年)に表面の岩石を採取したが、再着陸中に機体が損傷したら地球に持ち帰れなくなってしまう。津田雄一プロジェクトマネージャは「うまくいっているだけに、反対に悩みが深かった」と話す。
安全性確認のために、6月下旬の予定だった計画を2週間延期し、上空50メートルから着陸予定地点の人工クレーター付近を撮影し、岩石一つ一つを詳細に分析した。その結果、岩石はすべて高さが65センチ以下とわかり、機体が1メートル以上の高度にあれば安全と判断した。再着陸のシミュレーションも10万回実施した。再着陸の成功を「100点満点でいうと1000点」(津田マネージャー)という成果を得るまでには、こうした事前準備があった。
300億円かけたプロジェクトの評価はこれから
組織上の問題もあった。JAXAは、惑星探査の宇宙科学研究所、有人宇宙開発を進める筑波宇宙センター、航空機開発の調布航空宇宙センターの3つの組織が合併してできた。相互に壁があり、ノウハウ共有は限られていた。壁を取り払うため、主要ポストを倍にして他組織の人材を積極的に呼び込んだ。
「ちがった文化でやって融合できるのかという人もいたが、いろんな経験をした人が議論すると、いい方向にむかう。総力をあげて取り組みました」と、JAXA執行役だった山浦雄一さんはいう。
外の人材も取り入れた。批判も含めた意見を寄せていた名古屋大の渡邉誠一郎教授(惑星科学)を繰り返し説得して、科学者チームのリーダーとして招いた。これをきっかけに外部の科学者が続々と参画してきた。渡邉教授は「チーム力がどんどんアップして最高潮に達したときにりゅうぐうに到達した」と話す。
300億円をかけたプロジェクトには、巨額の公費投入の是非論議が今もある。これから地球への帰途の課題もある。カメラ責任者の杉田精司さんは「地球まで来て、『あ、(岩石が)取れた』というところまでは、良かったか悪かったか、本当の判断はできません」という。
「はやぶさ2」は今年11~12月にりゅうぐうを離脱、3億キロ近く離れた地球に帰還するのはその1年後だ。
*NHKクローズアップ現代+(2019年7月11日放送「はやぶさ2 密着!快挙の舞台裏」)