彼女が迎える次の朝が、少しでも優しいものになりますように。そう祈らずにはいられない、胸を締め付けられるシーンの連続だった。主人公・ララはプロのバレリーナを目指し、国内でも有数のバレエ学校に転入したばかりの16歳だ。美しい少女にしか見えないが、ホルモン治療前のトランスジェンダーで、身体は第二次性徴前の少年のままである。
名門校に編入したばかりで、バレエの実力も差がある。まわりは、もうポワントで立つ(トゥシューズを履いてのつま先立ち)訓練を始めて数年が経つ。足は痛むが、遅れを取り戻すには、今は我慢して踊るしかないと先生からは諭される。わかっているから、爪が変色しても、割れても、人一倍レッスンに励む。それでも、新しい振り付けがぽんと追加されれば、またみんなの何倍ものレッスンが必要になる。
レオタードで股間をどう目立たなくするか
レッスンを離れても、悩みはつきない。表面上はララのことを少女として扱ってくれる同級生たちも、悪無邪気さから、ララの身体をみつめる瞬間がある。レオタードを着るときに股間をどう処理しているのか。好奇の目が向けられるたびに、ララの心がすり減っていくのがわかる。自分の体が男であることに一番違和感をもっているのも、これがあるかぎり少女とは言えないと思いつめているのも、ララ自身なのだ。
手術に耐えうる年齢に達し、かつホルモン投与が完了し、体力が十分についたら、やっと手術に挑める。それまでの期間も、少女として前向きに生きてほしいと医療関係者や肉親は言うが、今のままでは「少女として前向きに生きる」ことができないから、ララは1日も早く身体を変えたいのだ。
過ぎてしまえば「たったの2年の違和感」でも、ララにすれば、絶望塗れの明日があと何百回も待っていて、それはほとんど永遠にしか思えない。そして、ギャップを心に封じ込め、何かを押し殺した目で「大丈夫」を繰り返す毎日だ。
物語が終盤に近付くにつれ、ララの内面の苦悩と低く静かな凪のような表情との乖離は広がり、不安をあおる。その状況でララが選んだ明日を変える選択とは・・・。その鮮烈さ、潔癖さに息をのんだ。ご都合主義に流れることなく、ララ自身に寄り添った納得のいく余韻があった。
長い手足と強い瞳が素敵なヴィクトール・ポルスター
主演のヴィクトール・ポルスターは、アントワープ・ロイヤル・バレエ・スクールに通う現役のバレエ・ダンサーで、俳優としてはこれがデビューとなる。少女とも少年とも取れるしなやかな体と、その体に違和感を持っているララの葛藤や決意を語る「顔付き」の演技は抜群。投げ出される長い手足と、強い瞳のズームとのコントラストには、何度も不穏に揺さぶられた。
トランスジェンダーもの、LGBTものという括りには収まらない、自分を変えるという強い決意と、信念のままに自らを追い込む強さと危うさに、火を灯されるようなヒューマンドラマでした。
ばんふぅ
おススメ度☆☆☆