石巻の海に沈んでいる『3・11』
石巻の海の底には震災の残骸が未だに眠っている。震災の悲しみが癒えぬ街から聞こえる海の音が、登場人物たちの呼吸と何度も重なり合う。街も登場人物も海も、いつかは穏やかな日々が送れるように「凪」を迎えることを願うように何度も何度も重なり合っていく。
誰もが心に傷を負っている。それでも生きていかなければならない。勝美が末期がんにも関わらず漁に出るのは、震災で妻を失くし、助けに行けなったことを今でも悔いているからで、妻と出会わなければ漁の仕事もしていなかった。絶望から立ち上がり這いつくばる「覚悟」が、激しい波風――生き方であり、その対価として「凪」という状態が人生にはやって来るのだろう。
丸輪太郎
おススメ度☆☆☆