見終わった後、男も女も老いも若きも「ねえ、愛ってなに?」と思いをはせ、「ちょっとカフェでしゃべろうか」となること請け合いの、強烈な123分間だった。
30歳を前にしたOLのテルコ(岸井ゆきの)の好きな人は、猫背でやせっぽっちのマモちゃんこと田中守(成田凌)。そんなに親しくもない女友達の結婚式の二次会で、同じように場になじめてなくて、同じようにどこかに行ってしまいたいような気持ちで、そのままなし崩しに関係が始まった恋人未満の関係だ。
ぎゅーっとされるととろけそうで、喜んでくれると天にものぼりそうな心持ちで、自分のためだったら億劫なことも、マモちゃんのためなら全然惜しくない。すっかり夜も更けてから、「すごい熱が出てつらいから買い物してきてくんない?」なんて電話があったら、とんでいって甲斐甲斐しく世話を焼くし、マモちゃんからのお誘いを待つために、不要な残業をこしらえて会社にスタンバイする。
尽くせばつくすほど広がっていく距離感
でも、テルコの愛が深まるほど、マモちゃんはちょっと引く。冷めるというより、覚める。固まる。テルコに恋愛感情を持っていないのだ。だから、一緒に楽しく過ごしていると思った次の瞬間、予想もしていなかった言葉が降ってくる。たとえば、ご飯をつくり、看病しようと腰を落ち着けたところで、「帰ってくれる?」
終電なんかない時間、テルコは一人、夜道を歩く。そんな男だめだよと言われても、そうは考えない。だって、タクシーないって言わなかったのは、私のほうだし。たちかに、買い物は頼まれたけれど、看病したのは善意だし。
テルコとマモちゃんの物語は、けして「だめんず好き女子のうつな日常」ではないのだ。好きな人にくっついていられることが、嬉しくて仕方なくて。でも、拒絶されることが怖いから好きとは言わない。叶わない恋だから、うまく行く可能性は低いから、やめる。それすら打算に見えてくるほど、テルコの恋は、清々しくて、前向きで、痛々しくて、怖い。
献身、自己犠牲・・・それが愛なの?
男版・テルコの立ち位置で描かれるナカハラの「こういう存在になりたい」もなかなかに怖いし、世の中には「好きか、どうでもいいかしかない」と言い切るテルコの脳内比重はもはやホラー。それでも、程度の差こそあれ鳴りやまない共感がこの映画の肝だ。
純愛、執着、身を引く、失恋、好き、本当に好き・・・って何からどこまでが愛なのか。答えなんかないけれど、誰かに好かれたくて、与えたくて、悶える気持ちの前ではどうだっていい。
一度でも片思いをしたことのあるすべての人を揺さぶる、私的上半期ナンバーワン恋愛映画です。
(ばんぶぅ)
おススメ度☆☆☆☆