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1970年代後半のポーランドの小さな田舎町。12歳の少年ピョトレックは夏休みを母親のヴィシャと共に過ごしていた。父親のイェジは出稼ぎ中だったが、母と息子は仲が良く、いつも一緒に行動をしていて、楽しい休日を過ごしていた。
ところが、ある日を境に母親は夜に外出することが増えていく。楽しそうに着飾って外出の準備をしている母親に、ピョトレックは不安を覚える。そんな時に、都会からマイカという少女がやって来て、ピョトレックは彼女に好意を抱く。最初は不機嫌な態度を見せていたマイカだったが、二人は仲良くなり、一緒に遊ぶようになる。母親の外出は毎晩になり、父親からは電話がかかってきた。
男と密会しているらしい母親、街からやってきた少女
ポーランド国内で才能を高く評価されているアダム・グジンスキ監督が、子どもと大人の狭間で揺れる12歳の多感な目線を通して「夏の記憶」を描いていく。
家の中で母親がレコードをかけ、ピョトレックの手を取り、ダンスをするシーンが、ノスタルジックな映像美も相まって、ひたすら美しく、エロチズムすら感じさせる。夫が不在の中、「女性」としてのヴィシャの精神状態と、父親がいなくても大好きな母親だけがいればいいというピョトレックの感情を描いたシーンとなっている。
母親が外で何をしているかなど、12歳になれば感覚的には分かるし、分かるだけに、とてつもなく寂しい。電話で父親に「寂しくないか」と問われ、何も言えないピョトレックから母親は慌てて受話器を奪う。
電話が終わってから、「お父さんに心配をかけてはいけない、約束しなさい」と叱責される。この「母親が醸し出す女性感」がピョトレックの寂しさの根源なのだ。
映画はピョトレックの視線で語られる。変わっていく母親を見る視線。町の不良青年に恋をしていくマイカへの視線。自分だけ成長していない感覚――取り残されていくという孤立感は、すべてを空しく感じさせる。母親とマイカと遊んだ森林の木漏れ日、ライトグリーンの湖の美しさも、ピョトレックにもう退屈な風景でしかない。
台詞は少なく、「小さい頃の夏休み」という間延びしたような「長い退屈」を美しく描いている。
古き良き時代を少年の目で描いたひと夏の夢
1970年代後半のポーランドは、ピョトレックの父親が海外に出稼ぎに出向いていることからも分かるように、経済的に苦しい時代だったが、国内では「懐かしき時代」として国民に郷愁を感じさせる時代としてとらえられている。ポーランドの忘却感もピョトレックの目線で描かれており、「変化」に敏感である。初恋、友情、性、そのどれもがピョトレックにとって甘美でいて冷酷な、忘れがたい夏の記憶となる。
父親が帰ってくる。幸せを取り戻したかのように遊園地の遊具で大はしゃぎする一家。笑顔のピョトレックは来年には遊具には興味を示さないかもしれない。彼らの笑顔は蜃気楼のように淡く、邯鄲の夢の如し美しい。
おススメ度☆☆☆☆
丸輪太郎