「1日たった15分操作するだけで3万円稼げる」というアプリが問題になっている。実際には1円も稼げないにも関わらず、10万円から50万円と高額で売られているのだ。5月17日(2019年)の消費者庁の発表によると、購入者は約2000人、被害額は総額3億3000万円にものぼる。
そんなウマい話、普通に考えれば怪しいとしか思えないのだが、なぜ2000人もの人が騙されたのか。
「誰でも簡単に、ゲーム感覚で、100%損をしないで儲かる」
田中さん(59歳、仮名)は母親の介護のため2年前に長年勤めた会社を退職した。介護も終わり、求職中にこのアプリを購入した。「仕事がみつからないから、こういうので食べていくしかないと思って」と田中さんは話す。
最初は半信半疑だったが、送られてきた南栄作を名乗る会社代表者の宣伝インタビュー映像を見て、すっかり信じてしまった。アプリが行うのは、いわゆる仮装通貨の売買。国内外にある7つの取引所の価格をアプリが検索し、最も安く買える取引所から仮装通貨を買い、最も高く売れるところへ売って儲けを得るというものだ。
南栄作は「片手間で稼げる。寝ていても稼げる。1日15分で最低日給3万円という収入が、冗談ではなく、本当にあなたの手の中に入ってきます」「誰でも簡単に、ゲーム感覚で、100%損をしないで、稼ぐことができます」などとしゃべっていた。
デモ映像の会社代表もスタッフもみんな架空
田中さんが無料体験版のデモンストレーション用アプリを試すと、「buy(買う)」「sell(売る)」というたった2つのボタンを操作するだけで、画面上の利益がどんどん増えていった。1日で5、6万円ほど稼いだ田中さんは手ごたえを感じ、本番環境用のアプリを手に入れるため、9万8000円を支払った。
しかし、その後に届いた本番アプリは、機能がまったく異なり、利益が出る仕組みではなかった。運営会社に不備を問い合わせると、「いや、それで儲かりますよ」と言い張る。それどころか、メールで新商品の購入を勧められ、結局、田中さんは利益を得られないまま3つのアプリを買い、計74万6000円を支払ってしまった。電話が通じなくなるまで、騙されたことに気付かなかったという。
冷静じゃなかった。完全に洗脳されていた」と田中さんは肩を落とす。ほかの被害者とともに返金などを求める裁判の準備中だ。消費者庁によると、「南栄作」はもちろん偽名で、インタビューに出てきたのは全員架空の人物だという。会社代表は聞き取りに応じ、返金などの対応を考えているという。
宝槻泰伸(塾「探究学舎」代表)「ニュースとかで表面的に見ると、騙される人の心理が分からないと思ってしまいますが、教室で子どもを相手にしていると分かるのですが、人間は常に決まったパターンで驚いたり感動したり悩んだりします。この南栄作を名乗る人物も、そういう心理を研究したのでしょうね」