去年(2018年)秋、右ひじ側副靭帯のトミー・ジョン手術を受けた大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手は、今シーズンからバッターとして復帰したが、いまだ勘が戻っていないのか、きょう11日(2019年5月)のオリオールズ戦は5打席ノーヒットだった。
移植に詳しい馬見塚尚孝医師は「復帰まで打者で半年、投手なら1年が普通」という。医師、コーチングスタッフと様子を見ながら慎重に復帰プログラムが進められている。エンゼルスのオースマス監督は「投打、別のものをいっしょにやる難しさがある。投手としての将来を考えると、一気に練習させられない」と語る。
大谷は素振りの再開、1か月後にキャッチボールも始めたが、最初は6メートル先の相手に20球、3日後に9メートルで10球、さらに12メートルを35球などと細かく管理されている。「もっと緩く!」とトレーナーから声が飛ぶ。山なりのボールを投げろという指示だ。早い時期に力を入れ過ぎると、負担が大きくなるからだ。
トミー・ジョン手術を受け、その後も7年間現役を続けた元巨人の脇谷亮太選手は、「手術後もずっとひじは痛かった。あの感じはやった人でなければ分からない。ひじを伸ばすのが怖い」と話す。
テークバック大きい大リーグ流バッティングホームに改造
大谷は素振り練習を非公開としてきたが、4月にフリーバッティングを公開し、33スイングのうち柵越えを9本を放った。その打撃フォームは去年とは変わっていた。動作解析の川村卓・筑波大学准教授は「足の幅を広げ、テークバックをより後ろに引く大リーグ選手がよくするスタイルになっています。大谷選手はリハビリをステップアップの期間と考えているのではないでしょうか」と見ている。
元中日ドラゴンズ監督の落合博満さんはこう話す。「今回のように、すぐゲームに出て元の感覚に戻せというのは無理ですよ。ピッチャー大谷を見据えてのステップだろう」と話す。バッティングフォームは「去年までの方が好き」という。「テークバックを後ろにした分、肩に力が入ってしまい、バットが出づらい」と分析した。
投球フォームも、ひじからではなく、手首から先に振り上げるスタイルに変えようとしている。馬見塚医師は「ひじが先ではより負担がかかり、リスクが高いんですね。フォーム改造で160キロ超えのストレートが数キロ下がる可能性はあります」という。
桑田真澄さん「手術の前のイメージは捨てた方がいい」
トミー・ジョン手術を経験した元巨人の桑田真澄さんは、「同じフォームはあり得ない。手術前のイメージは捨てた方がいい」と語る。同時に、二刀流のリスクも指摘する。投手に集中できず、打者としてはデッドボールやスライディングでけがをする可能性もあるからだ。
これに対して、落合さんは「リスクはない」と言い切る。投球フォームの改造も「いい方向に出るかもしれない」と、もっと速くなる可能性まであると指摘した。
*NHKクローズアップ現代+(2019年5月9日放送「密着!大谷翔平 二刀流復活への道」)