デジタル機器禁止、パソコンなしの学校――子どもに人間力をつけさせる
レジ係、路線バス運転手、一般事務員の99・7%は10年後にはAIにとってかわられるという予想もある。公認会計士でも85・9%、司法書士でも78%と、「専門性が高いといわれる仕事」もAI化されそうなのだ。これを「AI失業の危機」と考える田坂さんは、「高学歴の人もきびしい時代で、文部科学省の教育体系全体が世界から見ると遅れています」と警告する。
その教育で、巨大IT企業が集まるアメリカ・シアトルで人気の私立学校がある。デジタル機器の使用は一切禁止で、校内にコンピューターは1台もない。重視するのは協調性と創造性だ。教務主任のシンディー・ジョーダンさんは「世界や人間を理解する前の子どもがタブレットやスマホを使うと、自分で考えられなくなります。人間同士の関係を作れない。生身の体験をさせることの方が大事です」と語る。
これがIT業界で働く親たちにうけている。母がマイクロソフト勤務で、父もITプログラマーという9歳児の家庭は、平日にデジタル機器に触れるのは禁止、週末も15分間だけ、家事を積極的に手伝わせる。母親は「この子が大人になるときは、どんな仕事があるかわかりません。自分で問題解決する力、適応力や柔軟性を最大限に伸ばすしかありません」と、変化の時代を見つめる。
田坂教授は「相手の気持ちをくみとる、自分の気持ちを伝える人間力を子どものころから身につけることが重要になります」と語る。元気のないメンバーを励ます、仲間と協調して成長を支える力が人間に求められるという。
松尾教授は「やっぱりITやAIのスキルが大前提。デジタルに何ができ、何ができないかをわかったうえで、人間の力をのばしていかないといけない」と、両輪の考え方をとる。そのうえで「社会の常識を使った総合的な思考は、人間がやる。AIには常識はありません」と、人との対話や意味内容の理解に人間の仕事を見いだす。
武田真一キャスター「私たちはこれからのAI時代にどうしたらいいのでしょうか」「楽ではないが、人間だけができる、より高度な能力を発揮できる最高のチャンスがむしろきています」(田坂教授)、「人間の学ぶ力や適応力はすごいと信じたい」(松尾教授)
AIに翻弄されるか、乗り越えるか。新しい時代が始まっているということだ。
*NHKクローズアップ現代+(2019年4月25日放送「"AIに負けない"人材を育成せよ~企業・教育 最前線~」)