AI(人工知能)が人間にとってかわる時代に、仕事や教育はどう変わるのか。東京都豊島区のホテルでは自動チェックイン機が客を迎え、業務の無人化が進む。2030年までに客室業務の98・7%をAIがこなす見通しだ。しかし、人から機械にかわることには、「冷たい感じがする。機械操作がよくわからないとの声もあります」(総支配人の磯川涼子さん)という。そこで考え出したのが、ご近所ガイドの新業務だ。
入社3年目の久下晴花さんは、これまではすべてホテルの中で仕事していたが、外に出てガイドブックにない情報を探す。客を「穴場」に案内するためだ。「AIにやることを奪われると考えるよりも、人間にしかできないことで頑張ろうと思います」
ホテルグループ代表の星野佳路氏は、「楽しいことを演出する能力とか、それを地域の歴史や文化と結びつける能力が、よりクリエイティブな作業につながります。AIが仕事の意識を変え、より楽しくしてくれます」と語る。
AI研究の第一人者、東京大大学院の松尾豊教授は「AIの得意・不得意を知れば、(人間が)負けることはない」「会話や発見が人の価値の高い仕事になる」と解釈する。
データ化、マニュアル化できない想像力、接客力、管理力
不動産会社の営業は2030年までに半分以上をAIがこなすといわれる。これまで人間が2時間半かかった価格査定をAIは1分でやってしまう。ところが、AIが1500万円と査定した中古マンションが売れない。客のニーズを分析して、床や壁をリフォームすると買ってもらえるということが、起きている。「データにない客のニーズを見極めることで対抗する」(大阪で不動産業30年の難波啓祐さん)という。
多摩大学大学院の田坂広志・名誉教授はAI時代に求められる人材の条件として、「クリエイティビティー(想像力)、ホスピタリティー(接客力)、マネジメント(管理力)が大切です」と指摘する。
採用や人事評価の面も変わってきた。メガネ業界は2030年までに、技術、販売分野をあわせて51・7%がAIになる可能性があるという。4年前からAIを導入した田中修治社長は、「AIやビッグデータで解決できるものは全部さっさと置き換えて、目の前のお客を楽しませる人だけが残ればよいビジネスになる」と話す。求めるのは「お客の共感を得られる人材」だ。
従業員の評価にSNSとそのフォロワー数を取り入れた。フォロワーが1万人を超える人は、発信力の高いインフルエンサーとして基本給に月5万円の「インフルエンサー手当」が支給される。採用時も書類選考や筆記試験が免除される。「人間にしかできないことによって得られる付加価値は、もっと増えていく」(田中社長)という見方だ。