東京・池袋の交差点で3歳の女児と母親(31)が死亡するなど10人が死傷した事故(2019年4月19日発生)で、暴走した車にはハンドル操作の形跡がなく、現場にはブレーキ痕もなかったことが分かっている。
防犯カメラには、猛スピードを出す暴走車が、横断歩道を渡り切ろうとした母娘の自転車に突っ込む様子が映されていた(放送されたのはぶつかる直前まで)。なんでもない1日を過ごしていた親子が、一瞬で命を奪われた瞬間の映像に、米ニューヨーク州弁護士の山口真由氏は「ものすごくショッキングな映像です。横断歩道の途中まで日常なのに、この後に全てが崩れてしまうと思うと...」と目を潤ませる。
高齢ドライバーならでは? アクセルを踏み続けた理由
事故を起こしたのは旧通産省工業技術院の飯塚幸三・元院長が運転する乗用車。カーブでガードレールに接触したのをきっかけにパニック状態に陥ったのではないかとみられるが、その直前、ドライブレコーダーには同乗する妻との会話が残されていた。「危ないよ。どうしたの?」と問いかける妻に「あー、どうしたんだろう」と答えていた。
この直後、ガードレール接触を皮切りに、アクセルを踏み切る、いわゆる「ベタ踏み」状態で直線150メートルを加速しながら暴走。赤信号を2回無視し、凄惨な事故を起こした。
警察庁科学警察研究所で交通事故鑑定・分析を担当した経験がある、山梨大学大学院教授の伊藤安海さんは「とっさの時にはペダルを踏むことより、踏んでいるペダルから足を外すことの方が難しくなる。特に高齢者は、何かをするよりも、している動作を中断して違うことに切り替えることの方が難しいのです」と話す。
ハンドル操作の形跡がなかったことも高齢者にありがちだ。伊藤さんは「高齢ドライバーの特性として、いざというとき、アクセルブレーキよりもハンドル操作ができなくなる。おそらく、その姿勢でがっちり固まってしまったのでは」と分析する。
一度は運転を止めたという飯塚氏は、足を怪我して杖を使い始めたころに運転を再開。しかし、マンションでは車庫入れに手間取っているところが何度も目撃されていた。
「いったん車の運転をやめても、年を取るにつれ自分の能力やリスクを客観的に判断する力が低下し、再開してしまうケースは珍しくない」と伊藤さん。「運転能力と認識は反比例するところがあって、うまい時は『危ないからやめる』と判断できるが、能力が下がってくると『まだまだ大丈夫』と思ってしまう傾向がある」というのだ。
高齢ドライバーをチェックする6つのポイント
昨年死亡事故を起こした75歳以上のうち、50・7%は「認知機能低下の恐れはなし」とされていた。伊藤さんは「認知機能検査で運転能力の低下度合を判断することは難しい。日常の中で、同乗者が客観的にみていくことが重要」と話す。重要なのは第三者が判断すること。身近に高齢ドライバーがいたら、以下の6つのポイントに引っかからないか見てみよう。
1)車庫入れを失敗する、2)ウインカーを出し忘れる、3)カーブをスムーズに曲がれない、4)標識を見逃す、5)逆走しそうになる、6)同じ交通違反を何度も繰り返す。
山口真由「家族から(免許返納したほうがいいと)言いだす事は難しい。プライドにも関わってきますから。国の制度をきちんと見直した方がいい。今の状態で、ほとんどの人が引っかからずに更新できてしまうのは問題です」
玉川徹(テレビ朝日コメンテーター)「今は過渡期で、車の事故を防止する機能はどんどん進んでいく。赤信号では自動的にブレーキがかかる機能も早晩についていく。それがなかったら自動運転なんて成立しないわけですから」
石原良純(気象予報士、タレント)「僕は自動運転なんて成立しないと思う。(マニュアル車の)クラッチだったらこの事故は起きなかった。便利になると便利になったがために次の問題が起きるものです」