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何者かになるという夢に向かって頑張るお話は、成し遂げた時点をゴールとするストーリーが多いけれど、本当に大変なのも、楽しいのも、その先だ。この映画もビターな後味が残ります。
フローレンスが降り立ったのは、イギリスのひなびた港町だった。書店員だった夫を戦争で亡くし、この海辺の町で、夫が夢見ていた書店のオーナーになろうと決めた。もう数十年も本屋は存在しない保守的な漁師町だが、1冊の本との出会いが人生を変えることもあり、小さくても良質な書籍を集めた書店を開き、人々の糧になりたいと考えたのだ。
しかし、その思いはなかなか人々に届かない。そもそも読書の習慣のある住民が少ないことに加え、フローレンスが店と住いにと決めた空き家は、地元の有力者が横取りをもくろんでいるなど、芳しくない状況が続く。
それでも、初めて見た書店に物珍しさから入る客も少なくないし、アルバイトを頼んだ近所の少女は朗らかで聡く、フローレンスの心を慰める。また、村八分にあい、40年間も大邸宅から出ようとしない老紳士は、フローレンスの選書センスに感心し、二人は本好きとして心を通わせる。
ようやく夢がかないはじめたように見えたが、フローレンスを目の敵にしていた資産家の地元ボスは着々と外堀を埋めており、愛想よく振舞っていた隣人たちにも、やはり偏見があった。
コントラストが素晴らしい「灰色の空と海」「色鮮やかな書物」
監督は「死ぬまでにしたい10のこと」のイザベル・コイシェ監督。曇天と海がひどく寂しく、穏やかに広がる。そんな灰色の町に、新しい風を吹き込むフローレンスと、真新しい本の色彩がぱっと鮮やかに輝く。海辺にたたずむ古びた荒れ家に棚が運ばれ、ショウウィンドーに本が飾られ、書店として外に開かれたときの画の美しさは、映画好きも、本好きも眼を細めるはずだ。
演出は「映画なのに本のよう」を意識したのか、説明的なナレーションが比較的多い。「へこたれなかった」「こう感じた」など、空気だけで醸してほしい心情がナレーションとして語られると、物語の進行がわかりやすい半面、ひとつひとつのカットへの注意がそがれる。
冒頭30分間は、「字幕がうるさい」感覚だった。最後まで見れば、その演出がある伏線だったことがわかるのだが、ここを乗り切って物語に入れるかがひとつの鍵かもしれない。
映画の中で、最新の話題作として紹介されるのが「華氏451度」で、主人公が勝負をかける1冊として選んだのが「ロリータ」など、本好きならより楽しめる作品になっている。「ロリータ」はちゃんと初版本の装丁になっているなど、ディティールも味わいたい人に勧めたい映画だ。
ばんぶぅ
おススメ度☆☆☆