アスリートに広がる電気刺激装置。怪我も早く治り、パワーもアップ? 体にほとんど感じない微弱電気がスポーツ界を変えようとしている。
微弱電気を腕や足に流すと筋肉の疲労回復が早まり、患部に流すことによって肉離れやねんざなどの痛みを緩和させケガをより早く治す。さらに脳の運動野を微弱電気で刺激しパワーや瞬発力を向上させる――
そんなアスリートには夢のような装置が開発され、プロのアスリートたちの間で利用が広がっている。もっとも急激な普及に対し、効果についての医学的治験や安全面の確認など臨床試験はまだ不十分。いっぽうで「新たなドーピングでは?」と懸念する声も出ている。
電極パットにわずかな電流を体に流すだけで疲労回復
さてスポーツ界を揺るがす新技術の実態とは?
陸上男子100メートル走で日本初の9秒台を出した桐生祥秀選手の後藤勤トレーナー(日本オリンピック委員会強化スタッフトレーナー)は、「東京五輪に向けて体のコンディション作りに欠かせないものがある」という。
「マイクロカレント」だ。電極のパットを張り、わずかな電流を体に流すだけで疲労回復を早めたり、肉離れやねんざの痛みを緩和させたり、治りを早めるという。
なぜ「マイクロカレント」が疲労回復や怪我の回復を早めるのか?
アメリカンフットボール日本代表のチームドクター、藤谷博人(聖マリアンナ医科大学スポーツ医学教授)が、筋肉にダメージを受けたマウスの足に微弱の電流を流す実験を試み、回復の過程を詳しく調べた。
結果は、筋肉の修復を促進するある細胞に大きな変化が見られたという。筋肉細胞の隙間にあるピンク色の「筋衛生細胞」だ。肉離れなどで傷ついた筋肉細胞の修復にはこれが使われるが、微弱電流を通さないときに比べ2倍近く増加し、怪我の治癒を早めていると考えられている。
しかし、スタジオにゲスト出演したノンフィクション作家の石井光太さんは懐疑的で、「効果が期待できるというのはまだ微妙なところ。例えば、こうした番組で無理に市場が広がる可能性がある。そこは気を付けてゆっくりしたいなと思う」と話す。
キャスターの武田真一の「では、効果はどこまで分かっているのか?」という疑問に、ゲスト出演した最新医療に詳しい大野智島根大教授が次のように答えた。
「効くか、効かないかは最終的に臨床試験という形で検証しないといけない。現時点では、小規模な臨床試験や症例報告の形での研究結果がほとんどという状況です。トップアスリートでは体感できているケースもありますが、一般の人や高齢者が使ったらどういう結果が得られるかという情報は不十分だと理解してほしい」
もっとも、医学的治験が不十分の中でさらなる開発が進み、アスリートたちはさらに先へと利用が先行している。
キャスターの鎌倉千秋が挙げたのが、米ウイスコンシン大学で開発された電気絆創膏。怪我をした指に張ると指を動かすたびに絆創膏内の金属が動き微弱電流を発生させる。実験では怪我の治りが4倍早くなったという。また頭につけ頭痛に効果のあるものや腕につけただけで吐き気を止めるものまで出現している。