これまで「クール・ジャパン」の象徴とされてきた漫画やアニメの世界で、中国の存在感が急速に高まっている。
集英社の「少年ジャンプ」編集部がインターネットで配信している漫画サイトには、中国人漫画家の米二が描く「一人之下」があった。4月(2019年)からは国際的漫画賞で大賞を受賞した中国の漫画「カノカレ」が配信されるという。
細野修平編集長は「日本の漫画と遜色ないくらい中国のレベルが上がり、恐るべき才能を持った漫画家が生まれている」と話す。
政府がバックアップ!テレビ・ゴールデンタイムに放送優先
中国で制作された3Dアニメ映画「西遊記之大聖帰来」は、日本など世界60か国で公開され、200億円以上の興行収入を得た。中国のアニメ産業の市場規模は2017年に2兆5000億円に達し、日本を大きく上回っている。海外に輸出される作品も増えている。
「西遊記」の田暁鵬監督は、来年(2020年)公開予定の3DCGアニメ「深海」を制作中だ。中国政府が整備した制作施設で、ハリウッドで活躍したクリエーターたちがモーションキャプチャーなど最先端の技術を活用して制作にあたる。田監督は登場人物の表情を描くために、わざわざ天才子役といわれる11歳の女優を呼び、複雑な感情表現を演じてもらっていた。
中国の漫画・アニメを支えているのは、インターネットの活用だ。1億5000万人の読者が登録する漫画・アニメのポータルサイトを運営する「テンセント」は、編集者がパソコンのチャットで漫画家とやり取りをしている。新作の持ち込みも、連載漫画の修正もすべてチャットで行い、直接顔を合わせるのは年に1回程度だという。
編集者が認めた作品はまず無料でサイトに掲載される。ダウンロード数をもとにランク付けし、人気が出ると有料化され、その人気がさらに続けばアニメ化・ゲーム化して、幅広いビジネスを展開している。このビジネスには大手IT企業「ウェイボー」も参入し、ダウンロードされた時間や地域、年齢などを解析し、ヒット作を生み出している。
中国が急速に力をつけた背景に政府のバックアップがある。2004年に海外アニメ作品に規制を加え、国産アニメが7割、海外アニメは3割までと定められた。08年にはテレビのゴールデンタイムに海外アニメを放送することが禁止され、13年には衛星放送に毎日30分以上の国産アニメ放送を義務付けた。国産アニメ会社には税制の優遇や奨励金まで与えている。
中国原作と日本の高い技術で共同制作
日本との関係にも変化が見え始めている。これまでは原作は日本、アニメ制作の一部を中国が担う仕組みだったが、中国のアニメ産業が集積する大連では、最近は中国向けのオリジナル作品を制作したり、中国原作のアニメを日本で制作して中国で公開する動きも出ている。
東京都内で日本人と事業を立ち上げた「カラード・ペンシル・アニメーション・ジャパン」の鄧志巍代表取締役は、「日本で制作する優秀な作品を中国市場に出し、日中の懸け橋になりたい」と話す。そのために、家賃補助や残業少なめの労働環境を提供することで、高い技術のある日本のクリエーターを採用している。
合作の動きも始まっている。去年8月公開の「詩季織々」は、日中のスタジオが協力して制作、監督も日中共同、両国で同時公開されて話題になった。「日中映画共同製作協定」によって、日中合作映画は海外映画の上映制限の対象外になる。
漫画の表現スタイルも変わろうとしている。集英社は中国と同じ縦スクロールの漫画を募集したコンテストを開催した。集まった200作品から選ばれた上位5作品は、中国のポータルサイトでデビューできる。日本の漫画を英語やスペイン語に翻訳し世界同時配信するサービスも始めた。
細野編集長は「5~10年後に、漫画は今とは別のものになっている可能性もある」と話す。
武田真一キャスター「面白いものを競い合いながら作ってほしいですね」
*NHKクローズアップ現代+(2019年3月5日放送「どうなる?日本のマンガ・アニメ~中国 急成長の衝撃~」)