景気動向や経済政策の指標となる重要な統計が歪められていた厚生労働省の統計不正問題。雇用保険や労災給付金の減額につながり、GDPをはじめ日本の姿を映す数値や賃上げにまで影響する。こんなにいい加減なことがどうして起こったのか。現場の担当者が内幕を語った。
厚生労働省がまとめる毎月勤労統計の不正は2004年に始まった。本来は500人以上の事業所すべてを対象に調べるはずが、東京都内は3分の1しか調査せず、必要な係数処理もやっていなかった。当時の担当課長は重大とは思わずに決裁し、後任の課長にも引き継がなかった。いま不正発覚を知り「驚いた。フェイクニュースかと思ったぐらいだ。まさに私に監督責任があった」と語る。ここから5人目の課長まで、この状態が続いていた。
最初の課長「驚いた。フェイクニュースかと思った」
6人目で気づいた。しかし、実態である「抽出調査」の文言は入れられなかったというから、「隠ぺい」と批判されてもしかたがない。外部有識者会議でも「全数調査」のウソがまかり通っていた。この点を取材された元課長は「特別監察委員会の調査を受けているので話せることはない」という。真相追及のための調査が隠れ蓑に使われている。
7人目の課長は、前任者からの引継ぎで不正を知らされていた。彼は不正をルールにそって正すことよりも、ルールを実態に合わせることを考えた。「全数調査」の前に「原則として」と入れようとした。これは「なんで変えるのかと総務省から聞かれるのを恐れて断念した」と、当時の担当者は話す。
ウソの上塗りはしなかったが、不正そのものは気づいていたのに正さず、ぐずぐずと繰り返された。虚偽報告がここでも続いた。前例踏襲と事なかれ主義。組織が完全に機能不全の状態だった。当時の職員は「国民の顔は思い浮かばなかった。恥ずかしく申し訳ない」と振り返った。
こうして、統計数値を反映する雇用保険や労災補償は10年以上、過少支給が続き、2000万人に影響した。半数の1000万人はいまだに特定されていない。
直接の被害だけでなく、国そのものへの信頼も揺るがしかねない。不正は厚生労働省にとどまらず、7省庁の23統計に及ぶ。大和総研エコノミストの小林俊介氏は「投資に根拠のない状態になり、投資家や企業に疑問を抱かせる」と、日本経済への投資意欲の減退を指摘する。